「 国会議員91人が中国に要求したチベット人への人権弾圧の停止 」
『週刊ダイヤモンド』 2012年4月14日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 932
2012年4月4日は日本国にとって記念すべき日になるだろう。初めて、日本の国会議員が超党派でチベット亡命政府のロブサン・センゲ首相を招き、チベット問題について聞いたのだ。他の先進諸国の選良たちは長年同問題に関心を持ち実情を理解した上で、中国政府に言うべきことは言ってきた。チベット人に対しては、人道的見地から官民共に実質的な援助を行ってきた。
ダライ・ラマ法王14世の年来の主張は、(1)独立は求めない、(2)ただし、チベット仏教とチベット語の学び、チベット文化の継承を認め、高度の自治を保証してほしい、ということだ。
昨年8月8日に亡命政府首相に就任したセンゲ氏も、法王と同じく、独立ではなくチベット人として生きるために高度の自治を求めているにすぎない。チベット人が独自の文化を継承してチベット人として生きたいと願うのは当然だ。彼らの希望を非難する理由はない。ましてたたきつぶすことは許されない。人間として、また、文明国としてチベット人の声に耳を傾けないこと自体がおかしい。だからこそ欧米先進諸国はこぞってチベットの大義に心を寄せ、中国政府の弾圧を非難してきた。
日本はアジアの大国であるばかりか、その力は、実は世界の大国ともなり得るものだ。にもかかわらず日本はチベット問題に口を噤んできた。だが今回、ようやく正しく勇気ある行動に出た。
議員61人と代理30人、合計91人の議員がセンゲ首相を議員会館に招き、「チベットの実情を聞く会」を開いたのだ。センゲ首相は約30分の講演でざっと以下のことを語った。
〈チベットは1642年のダライ・ラマ法王5世のとき以来、政治と仏教を法王が指導してきた。しかし昨年8月、法王14世が政治と仏教を分離し、政治の権威をインドのダラムサラの亡命政府首相に引き継いだ。こうして亡命政府がチベット唯一の代表となった。中国内のチベット自治区代表はチベットの真の代表ではない。
中国政府は、亡命政府首相の私は正統性を欠くと非難するが、私は中国内のチベット自治区のチベット人も合わせた形で選挙をしても構わない。私は必ず勝つと思う。なぜならチベットが中国の一部であっても、チベット人は毎日の政治を漢人につかさどってほしいとは思わないからだ〉
中国の現状はチベット人にとってはあまりにも過酷である。その信じ難い実情についても首相は語った。
〈チベット仏教の僧侶たちはダライ・ラマ法王を誹謗し悪魔と呼ばなければ罰せられます。僧院には毛沢東以下、鄧小平、江沢民、胡錦濤らの肖像画が飾られ、僧侶らには毛沢東思想の教育が強要されます。抗議は一切許されず、ハンガーストライキをすれば逮捕され、いかに平和的なものであっても集会やデモをすれば、投獄され、多くが殺害されます。あるいは行方不明のまま戻ってきません。1月24日と25日の平和的なデモにはいきなり銃弾が浴びせられ、8人が射殺されました。
こうした状況下で、チベット人は次から次に焼身自殺を遂げています。09年以来、33人が焼身自殺を図り22人が死亡しました。極めて悲惨な死を遂げることで、世界にチベットの実情を知らせようとしているのです〉
センゲ首相の話は日本の議員らの心を打ち、首相来日に尽力した安倍晋三元首相は、「普段は国会で激しく対立している与野党だが、弾圧に苦しむ人々のために党派を超えて力を合わせましょう」と述べた。
会は「日本国国会議員によるチベット人弾圧に関する決議」を全員の総意で決議して閉会した。中国政府に「人権弾圧をただちに停止することを強く求める」という決議である。
人権、自由、民主主義を尊ぶ日本で記念すべき一歩が踏み出されたのであり、私はこの日集まった91人の議員に深い敬意を払うものだ。