「 軽視できない中国海軍の最新鋭キロ級潜水艦購入 防衛予算は削るより増やせ 」
『週刊ダイヤモンド』 2005年2月26日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 581
2月中旬、マラッカ海峡を抜けてマレー半島とスマトラ島のあいだを航行し、シンガポールの南端を回り込んで南シナ海を北上し続ける3隻の船の姿があった。中国のフリゲート艦(駆逐艦)2隻と貨物船1隻である。
フリゲート艦は「江衛(ジャンウェイ)」と「福清(フーチン)」である。両艦に守られるかたちで航行する貨物船の甲板には、最新鋭のキロ級潜水艦が積まれていた。ロシアに発注していた4隻のうちの1隻を、中国海軍が受け取り、本国に運ぶ途中なのだ。
中国には、1995年から99年にかけてロシアから購入したキロ級潜水艦4隻がすでにある。これらはディーゼル推進の潜水艦ではあるが、米国のロサンゼルス級原子力潜水艦に劣らない静寂性を持ち、探知するのが難しい。
今回中国が入手したキロ級潜水艦はロシア国内仕様で製造されたもので、かつて購入したキロ級よりもさらに性能が向上している。静寂性が高まっていることに加え、浅い海での潜航能力は飛躍的に優れているそうだ。米国の第七艦隊にとって非常にとらえにくく、そのぶん脅威である。
中国はその最新鋭キロ級潜水艦の1号艦を見せつけるかのように、公海上を通過した。米国をはじめとする国際社会に、誇らしくも強気に、手に入れた新たな力を誇示しているのだ。海軍力を背景に、中国の国際社会での地位の重さと力を知らしめているのだ。
日本に対しては、中国はさらなる示威行動を取っている。1月22日、ソブレメンヌイ級駆逐艦が初めて、東シナ海の日中中間線脇に造られた中国の天然ガス・石油採掘井戸、天外天と春暁の周囲をグルリと回ったのだ。
同駆逐艦は音速の2倍のミサイルを搭載。このミサイルは海面からわずか六メートルの超低空飛行が可能なため、米国のレーダーでさえも捕捉しにくいという性能のよさで、米国にとってもやっかいな相手である。そのソブレメンヌイ級駆逐艦が初めて、東シナ海で、日本威圧のためにグルリと回ったのだ。自らを海洋国家と定義した中国が、着実に力をつけ、つけたその力を見せつけ、日本に睨みをきかせ、米国にも“中国は手強い”との印象を与え、抑止しようとしているのだ。
それにしても、最新鋭キロ級潜水艦を中国海軍が保有したことの意味を、日本は過小評価してはならない。かつて英国とアルゼンチンがフォークランド諸島をめぐって展開した海戦を振り返れば、潜水艦の威力が痛感されるからだ。
堀元美氏の『海戦フォークランド』(原書房)を読むと、アルゼンチン海軍の三群の一つ、南方群の巡洋艦と駆逐艦が英国の原子力潜水艦「コンカラー(征服者)」に発見された。巡洋艦「ヘネラル・ベルグラーノ」は艦首と左舷(さげん)後方に魚雷攻撃を受けて沈没、1,000人を超える乗組員のうち、生存者は約800人だった。
この原子力潜水艦による攻撃は、「アルゼンチン海軍を一挙に母国の軍港内に閉じ込めてしまった」と堀氏は書いている。有力な対潜水艦部隊を伴わない限り、危険が大き過ぎて、艦船は港を出るわけにはいかないのだ。
潜水艦を探索して攻撃するには、一セット8隻の護衛群が必要だ。フォークランド紛争ではアルゼンチンの潜水艦を英海軍が探索して追いかけたが、撃沈することはできなかった。
潜航されてしまえば、潜水艦はこのうえなくとらえにくく、かつ大きな脅威を形成する。日本の海域に展開する米第七艦隊をも足止めさせるほどの力を、中国は手に入れつつある。日本への脅威が比例して増大する今、日本政府は防衛予算を削ってしまった。が、今は中国の脅威に備えて、削るよりは増やすべきなのだ。