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2005.01.20 (木)

「 ブラックバスと脅迫状 」

『週刊新潮』 '05年1月20日号
日本ルネッサンス 第149回

ブラックバスが日本の魚を食い潰す勢いで全国に広がっている。明らかに密放流によるもので、明白な違法行為の結果である。写真家の秋月岩魚(いわな)氏が憤る。
「日本におけるバス密放流の悪質さは、世界的にも例を見ないレベルです。ブラックバスには口の大きいオオクチバスと口の小さいコクチバスがいますが、両方共に全国的に生息水域を広げています。各水域でメダカやフナ、ワカサギ、鮎などが激減し生態系が破壊されつつあります」

一連の被害に対処するために昨年5月、ブラックバス駆除を主目的のひとつとして「特定外来生物被害防止法」が衆議院で可決された。以来、どの外来種を対象として駆除していくかを詰める小委員会が環境省で3度開催された。直近のそれは1月7日だった。ところが直前になって、小委員会は7日で打ち切りとし、輸入や移動を禁止する対象にはブラックバスを含まずに、1年間結論を先送りするとの趣旨が環境省側から示されたとの情報が駆け巡った。

釣り好きの親睦団体、釣魚議員連盟のメンバーで衆議院議員の平沼赳夫氏は、それはおかしいと語る。

「ブラックバスが日本の魚達を、種類によっては絶滅に近いところまで食い尽くす勢いなのは聞いています。魚がとれなくなって生活が成り立たないと訴える漁業関係者もいます。そのような時にブラックバスを放置して規制対象としての指定を先送りするのはどういうことでしょうか。日本の魚を守り、生態系を守ることを忘れてはならないのです」

平沼氏の尽力もあったのか、7日の会議では、先送りの決定は下されず、19日に次回会合が開かれることになった。それにしても、日本の魚類への被害が明らかなときに、もう1年、ブラックバスを野放しにするのはどういう理由からか。釣業界をはじめ、一部のバス釣り愛好者らの掲げる理由はさまざまだ。

密放流されるブラックバス

 たとえば子供たちが釣りを楽しみ自然に親しむのにブラックバスが必要だという主張がある。対して小委員会では、小学生らに釣り指導をしている委員が「子供たちは大人から与えられたゲームに惹かれていく」と述べていた。大人が教えてやれば子供たちはハゼ釣りで十分楽しみ夢中になる。対象となる魚がブラックバスである必要などないのだ。

 もうひとつ取り沙汰されるのが費用の問題だ。全国の無数の川や湖沼に広がったブラックバスを退治するには膨大なコストがかかるから、実行は難しいというのだ。だが、1年放置すれば事態がさらに悪化し、ブラックバスはさらに増え、駆除のコストがさらに大きくなるのは明らかだ。

また、すでに全国的に広がったのだから、資源としてブラックバスを活用すべきだという意見もある。違法な密放流を重ねて全国の水系に広げた結果を逆手にとって、ここまで広がったのだから受け容れよと言うのは開き直りである。密放流は違法行為だ。その結果を受け容れよとは本末転倒も甚だしい。

強調したいのは、ブラックバスが極めて獰猛な肉食魚で、大人しい日本の魚を大量に食べてしまうことだ。その結果、目に見えて生態系が破壊されつつあることが最も深刻な問題なのだ。典型的な例として宮城県伊豆沼を昨年10月7日号の当欄で紹介した。宮城県最大の天然湖でラムサール条約の登録湿地に認定された伊豆沼では、92年にはじめてオオクチバスが捕獲された。

「伊豆沼の自然を守ろうと立ち上がった人たちがブラックバスの駆除に乗り出しました。92年に捕獲したブラックバスは220キロ。ところが96年には700キロに急増、97年以降は2トンから3トンへとうなぎ上りに増えたのです。急増する前年の95年にトラックに積んだ水槽から何かを湖に放流している人物が目撃されていたと報じられました。大がかりな密放流が行われていたと言わざるを得ません。そしてそれは全国のどこかで今も続いていると思います」と秋月氏。

これ以上放置することは出来ないところまでブラックバスは増え続け生態系を崩している。環境省は直ちにブラックバスを規制対象として法律に書き込むべきだ。にもかかわらず、前述のように先送りされそうなのだ。背景には何らかの働きかけや圧力があると思われる。

秋月氏はブラックバス問題に取り組み始めてすでに10年以上がたつが、氏に対する圧力も凄まじい。

「数年前には脅迫状も届きました」 と秋月氏。

 氏が見せてくれたのはA4判の2ページの脅しの手紙だ。自称「美しい自然を愛する」人物が書いた手紙には、「ブラックバスは外来魚で肉食魚である。それがなんだというのだ」「弱肉強食は自然の摂理だ」「外来魚、外来魚とさわぎ倒すが、日本に生息したってなんら不思議はない」などと書かれている。

環境省の存在意義

この人物は、日本には日本の生態系があり、それを守ることが自然を愛することの基本だということを理解していない。さらに手紙は続く。
「(ブラックバスは)人間の利益になるからね」「ブラックバスを放流して訪れる釣り客のもたらす経済効果で成功している漁協や市町村だってあることをわすれてはならない」
 この点が非常に核心を突いていると秋月氏は言う。釣り具業界はまさにブラックバスによって売り上げをのばしてきたからだ。ルアーフィッシングによる売り上げは、一説には1,000億円にも上るといわれる。7日の小委員会でも、「ブラックバスのブームが過ぎてルアーフィッシングの道具などがダブついていて売れないという事情も(ブラックバス規制に反対する背景に)あるのではないか」との意見が出されたほどだ。

この手紙の最後は、「秋月氏の暴論」に「暴論」で対処すると断ったうえで、次のように書かれている。

「私は正直、日本古来の魚たちはブラックバスたちが潤うための餌にすぎないと思っている」「必ずやブラックバスは日本各地で公認魚類となり、いろんな恩恵をもたらしてくれる」「あなたも(ブラックバスと日本の魚たちの)共存ということに目を向けるべきだ。さもないとあなたの目玉で美しい自然が二度と見れなくなるぞ」

危害を加えると脅しているのだ。この手紙を書いた人物は特定されれば罪に問われるだろう。こんな脅迫状が舞い込んでくる異常な世界、この手紙を書かせるほどの切迫した利害が、ブラックバスには絡まっている。だが、環境省はいま、ブラックバスの1年間放置の方向へと政策を固めつつある。事態は脅迫男の言う公認魚類にブラックバスが事実上、なりかけている。圧力に屈していては日本の自然も何も守れない。環境省に猛省を促すものだ。

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「 ブラックバスと脅迫状 」

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