「 経済性どころか“割高”が証明された核燃料再処理問題 運転開始に明確な赤信号 」
『週刊ダイヤモンド』 2004年10月16日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 563
原子力政策の見直しを進めている原子力委員会の小委員会は、10月4日、原子力発電所の使用済み核燃料について、すべて再処理する場合のコストは、そのまま地中に埋める場合に較べて1.8倍になるという試算を発表した。
国が公式に両方式のコストを計算し、比較したのは初めてで、この結果は原子力開発利用長期計画策定会議で報告される。1960年代前半に計画された国策としての核燃料サイクルは、経済性を一つの柱とした当初の目論見からはずれ、じつは割高になるという数字が政府側の調査によって導き出されたことの意味は大きい。当然、青森県六ケ所村に建設された再処理施設の稼働問題にも、大きな影響を与えずにはおかないだろう。
同施設を稼働させるか否かの問題が瀬戸際にきていることは、過日、当欄(9月4日号)でも触れたが、今回の政府発表は、再処理施設の運転開始に明確な赤信号をともすものだ。プルトニウムという、強い毒性を持ち、半減期が2万4000年という取り扱いの難しい物質を作り続けることになる再処理については、経済性だけでなく、その危険性も十分に考える必要がある。加えて、日本のエネルギー戦略を進めるに当たり、国際社会の動向を読み取り、賢く対処すべきなのは言うまでもない。
その点で、日本だけが1960年代当初に描いた夢を諦め切れずにいると言うのは、技術評論家の桜井淳(きよし)氏である。氏は物理学者でもあり、次のように語る。
「世界の流れは完全に変わったのです。第二次大戦後の世界をリードし、冷戦終結後はさらに力をつけたのが米国です。米国は1977年のカーター大統領のときに再処理路線をやめ、すべての使用済み核燃料は、今、そのまま貯蔵されています。将来はネバダ州のヤッカマウンテンの地下貯蔵所に高レベル廃棄物として貯蔵する計画です。1980年代後半には、欧州諸国が同じ道を歩み始めました」
桜井氏は、カーター大統領は核兵器拡散を恐れ、各国に核不拡散の考えを受け入れさせるに当たって、米国がまず自国の使用済み核燃料の再処理施設を運転停止または建設中止した、と指摘する。再処理で生ずるプルトニウムが核兵器の材料になるからだが、このことは同時に、夢のエネルギーとして期待された60年代の計画、高速増殖炉の建設を米国が諦めたことである。10年後、欧州諸国が米国に追随した。英国はPFRという高速増殖炉の原型炉の運転を中止、ドイツは高速増殖原型炉SNR300を完成させたが、試運転に入る直前に廃炉にした。フランスも、少し時期は遅れたが、高速増殖炉の実証炉スーパーフェニックスを中止した。
原子炉は、10年前後をかけて4つの段階を踏んで開発される。第1段階は実験炉だ。次が原型炉で、実際に発電機を設けて小規模の原子力発電を実際に行う。第3段階が実証炉で、将来の商業利用に耐えうる技術と経済性を証明するものだ。そのあとにくるのが商業炉である。
フランスが撤退を決めたのは第3の実証炉段階でのことであり、スーパーフェニックスは商業炉にきわめて近いものだった。
「世界は高速増殖炉サイクルからだけでなく、使用済み核燃料の再処理からも撤退しているのが現状です。そのなかで、これまでの経緯で大量にプルトニウムを抱えてしまったフランス、ドイツ、日本などは、現実的な解決策として、このプルトニウムを軽水炉で燃やさざるをえないと考えています。これがプルサーマル計画です。新しい理想の核燃料サイクルというより、その崩壊に伴う尻ぬぐいなのです」(桜井氏)
経済的にも成り立ちにくい再処理施設の稼働には、あくまでも慎重であるべきだ。