「 中国の不法な海底資源開発を許してきた政府の無策以上に有害なメディアの報道姿勢 」
『週刊ダイヤモンド』 2004年9月25日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 560
今、中国が猛烈な勢いで日本の権益を侵し続けている。東シナ海海底に眠る天然ガス・石油を筆頭とする資源開発のことである。
5月23日には、東シナ海の日中中間線からわずか4キロメートル中国側に入ったところで、天然ガス・石油の採掘井戸・春暁の施設が海上に立ち上がった。6月22日には、海底パイプライン敷設工事が始まっていたことが、8月末に中国側から発表された。9月5日には中川昭一・経済産業大臣が中国側に、春暁天然ガス・石油田の地質構造などに関する情報を日本側に示さずに開発を強行し続けることに関して、強硬に抗議した。9月7日、中国外務省は、春暁は「完全に中国の近海」のこと、「日本側の資料請求にはなんら道理がない」と拒絶した。
海底の天然ガス・石油田は中間線をまたがっている。海上でわずかばかり中国側に入った地点に井戸を掘っても、ストローでコップのジュースを吸い上げるように日本の資源が吸い取られるのは自明の理だ。中国は東シナ海の資源を石油で1095億トンと推定、「イラクの埋蔵量に匹敵」と分析した。世界第2位の、石油大国イラクに並ぶ石油が眠っている可能性があるからこそ、彼らは総力を挙げて取り組んでいるのだ。
対照的なのが日本である。中国が、日本の領土である尖閣諸島の領有権を主張し始めた1970年以降、今日まで34年間、無策の状態が続いている。中国がどれほど日本の排他的経済水域、または領海で不法な資源調査を重ねようが、外務省は基本的に受け入れてきた。
言葉だけの抗議は、抗議したことのアリバイにすぎない。この点で、マスコミも批判せざるをえない。日本にとって重大事である海底資源問題と、中国の不法と横暴についての報道があまりにも少ないからだ。特に問題なのが「朝日新聞」である。「朝日新聞」は他紙同様、9月7日の中国外務省の情報提供拒否に関する記事、翌日の細田博之・官房長官の「引き続き中国政府に働きかけていく」とのコメントを、小さく伝えた。一方で、8月31日朝刊では、「日中関係、改善策は」「両国の研究者二人に聞く」とのタイトルで、慶應義塾大学の小島朋之教授と中国人民大学の時殷弘(シーインホン)教授との対論を載せた。
内容は、反日感情につながった中国の愛国主義教育、小泉純一郎首相の靖国神社参拝、日中首脳交流の断絶が主だが、海底天然ガス・石油田開発、尖閣諸島領有、台湾問題などにも触れられている。が、対論の参考資料として付記された「日中の最近の摩擦」を見て、しばし唖然とした。あえてその内容を要約すると、「2001年の小泉首相靖国参拝」「2003年チチハルで旧日本軍の遺棄した毒ガスにより市民1人死亡、40人以上負傷」「珠海で日本人の集団買春騒ぎ」「西安で日本人留学生の寸劇に抗議デモ」「2004年小泉首相元日に靖国参拝」「尖閣諸島上陸の中国人を日本側が逮捕、強制送還」などが並び、最後に「中国に対抗する形で日本が東シナ海の日中『中間線』付近で海底資源調査。中国は抗議」と書かれている。
集団買春や学生の寸劇は確かに恥ずべきものだが、中国側が行なってきた日本の排他的経済水域での資源調査は、日本人の行なった個人的行為よりはるかに重大な、国家ぐるみの不法行為だ。摩擦の最大要因を記さないばかりか、最後の項目は、日本の資源調査は非難されるべきものであるかのような書き方だ。
政府の無策と同様、メディアはこの問題を長く無視してきた。加えて、有力紙「朝日新聞」が突出しているのだが、現在の報道はあまりに中国寄りだ。中国に毅然として物を言おうとする心ある少数の政治家たちの足を、最も深刻に引っ張るのが、このメディアの姿勢である。