「 中国に気兼ねして台湾を裏切り国家の独立心を放棄する外務省 」
『週刊ダイヤモンド』 2011年11月5日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 910
台湾の建国記念日に当たる双十節(10月10日)の祝賀会は、10月6日に開かれたが、それに先だって外務省が各省庁の政務三役(大臣、副大臣、政務官)ら、政府関係者に出席を自粛するよう通知していたという。
「産経新聞」が10月25日の紙面で報じた上の情報は、わが国外務省の正体を疑わせるものだ。通知はこれまでの数年間、大臣官房総務課長とアジア大洋州局中国・モンゴル課長の連名で出されてきたという。あまりにも的はずれな、中国に気兼ねして国家の独立心を棄て去った慣例である。
3月11日の東日本大震災で、人口2,300万人の台湾がどの国よりも際立って多い200億円の義援金を送ってくれたことに、日本国政府も国民も深く感謝した。私は3月に台湾を訪れたが、文字どおり、街のあちらにもこちらにも日本と日本人を応援しようという立て札が立っていた。台湾の人々が心から日本を想っているのが伝わってきて、私は感動した。
彼らの日本を想う気持ちとその表現としての高額の義援金を受け取った日本政府が、当の台湾の建国記念日に政府関係者は出席するなというのは、台湾への裏切りである。人の気持ちを踏みにじる人倫に悖る言動は中国に任せておけばよい。日本人にはふさわしくないのみならず、日本の安全保障および国益上、大きな損失である。地政学的にも歴史的にも価値観においても日本と台湾の立場は重なる。日台の運命も大部分、重なっている。そう心して、台湾を大切にするのが日本の国益にかなう。
政府・外務省が台湾を裏切ってまで気をつかう中国は、いったい日本に何をしてきたか。日本が供与した巨額の政府開発援助(ODA)を感謝もなく受け取り、お返しに反日教育を施して今日に至る。尖閣諸島周辺の日本の領海侵犯事件は説明の必要もないが、今領海を侵犯するのは漁船ではなく中国政府の公船である。
中国はまた、日本の政治を担う衆議院議員全員と彼らの第一公設秘書全員、それに衆議院事務局のサーバにサイバー攻撃をかけ、パスワードや資料を盗み続けていた。防衛産業の最大手である三菱重工業、IHI、川崎重工業なども攻撃を受けていた。どれだけの機密情報を抜き取られていたかは明らかにされていないが、被害は深刻だと考えてよいだろう。
攻撃に際して、身元が判明しにくいように技術的操作を施しているが、たどっていけば対日サイバー攻撃のほとんどが中国に由来することも判明している。
政府・外務省はこんな中国に遠慮して、台湾の双十節祝賀の席に参加してはならないというのだ。中国へのへつらいが日本外交の基盤ではあるまいに、ここまで判断基準が狂っている。
2月の選挙でテイン・セイン氏を新大統領に選んだミャンマーは、前の軍事政権が中国に認めた水力発電のダム建設を凍結した。ヒマラヤ山脈を源流とするイラワジ川に中国は計七つの大型ダムを開発し、電力の九割を中国の雲南省に送る予定だった。
ミャンマーは東南アジア諸国のなかで最大面積の国土と豊富な資源を有する。ミャンマーの水をはじめ種々の資源が中国の狙いであり、雲南省、ミャンマー、タイを結ぶ高速道路の建設などで影響力を拡大し、東南アジアを事実上影響下に押さえ込む考えだ。
ミャンマーの新政権は軍事政権が受け入れつつあった中国の支配を拒絶し、民主主義によって成り立つ国際社会と同一歩調を取る路線へと切り替えた。人口5,000万人の、日本よりはるかに貧しい国でさえも傍若無人の中国支配を退ける気概は失っていない。
ひるがえって、わが日本はいったいどうしたのだ。国益を忘れ、気概を失い、ただのつまらない国になるような外交を猛省しなければならない。