「 現実を見ず、夢に逃げ込む者に国政を任せてはおけない 」
『週刊ダイヤモンド』 2011年6月11日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 890
菅直人政権への内閣不信任決議案提出が取り沙汰されるなかで、6月1日、谷垣禎一自民党総裁と山口那津男公明党代表を相手に党首討論が行われた。
谷垣氏の持ち時間が30分、山口氏はさらに短く、双方、突っ込み不足だった。しかし、討論が、「現在vs未来」の構図で行われたことだけは伝わってきた。
東日本大震災から80日が過ぎても、被災地の復旧、復興がいっこうに進んでいないと攻める谷垣氏に、首相は、「いよいよ本格的な復興計画」を立てて、「これから具体化」する、「通年国会の可能性を含めて延長して、取り組みたい」と答えた。
谷垣氏が第一次補正予算だけでは不十分で第二次補正の実行を急がなければ復興も生活の立て直しも不可能だと論難すると、首相は第二次補正の大枠をまず議論したい、財源についても自民党と協議したいと答えた。
必要な手を打てていない、だから菅首相ではダメで、辞任せよと迫る谷垣氏に、現状が不完全だからこそ、これから一緒に考えて、実行していこうと、首相は答える。
首相は最後に、谷垣氏が小沢一郎氏と組んでも小沢氏は子ども手当や農家への戸別所得補償などを主張し政策が異なる、異なる政策を掲げる者同士が連携できるのかと突きつけた。首相の指摘は正しく、そのような連携は無意味である。一方、政策の無責任な転換も公約の不履行も首相の得意技である。首相もまた、政策やそれを支える信念からはほど遠いのであり、その当人が谷垣氏を責めるのもおかしい。双方、まことにつまらない討論だった。
首相が眼前の事実から目を逸らし続け、現実を飛び越したその先の話をしたがるのは、問題が処理できていないという自分の足元を見たくないからだ。同じことが、首相が出席した5月26、27日の主要8ヵ国首脳会議(G8サミット)でも起きていた。
首相のG8サミットでの評価がさんざんだったのは、党首討論で見たように、首相が現実から目を逸らし、根拠なき未来の夢に逃げ込んだからだ。G8サミット参加国が切実に知りたがったのは、福島でいったい何が起きたのか、何が読み取れるのか、それを政策にどう生かせるのか、という詳細な分析と、それに基づく展望だった。
だが、首相は2020年代の早い時期に日本の発電量全体に占める自然エネルギーを20%以上に引き上げると表明するにとどまり、原発の位置づけや安全性の担保については触れなかった。サルコジ仏大統領は「原子力か、原子力なしかという議論は不適切だ」と述べ、菅発言を事実上、切り捨てた。脱原発のドイツは、自然エネルギーに軸足を置いた首相の決意表明を歓迎したかったであろうが、演説直後に、担当大臣の海江田万里経済産業相が「(私は)聞いておりません」と発言したのには、驚いたはずだ。
もう一つ明らかになったのは、首相が、2030年までに自然エネルギーを全体の30%にすると発表したいといって最後まで主張していたということだ。それを、計算も準備も出来ていないとして止められ、20%に落ち着いたというのだ。所管大臣も知らず、合理的根拠もない、ひとりよがりの数値目標で、日本国が国際社会の信頼を勝ち得るはずがない。首相の言葉は信頼出来ないと見抜かれてしまったからこそ、G8サミットのその後の会議で、首相の意見が求められる場面はついぞ、なかったのだ。
自らが目立つことしか考えていない首相は市民運動のリーダーにとどまり続けている。氏には国政をつかさどり、国際政治の場で国益を担うことは出来ないだろう。内閣不信任案の帰結は、現時点ではわからないが、無能の指導者が居座り続けることは日本の国益が削り取られることである。責任を果たせない者は去るしかないと私は思う。