「 ネット革命による体制変革を民主主義社会への転換につなげたい 」
『週刊ダイヤモンド』 2011年2月12日号
オピニオン縦横無尽 874
チュニジアから始まり、2月3日現在も、激しくエジプトを揺るがしているデモは、ツイッターやフェイスブックなどのインターネット革命によって可能になった。
中東における従来の体制変革が軍事クーデターや米軍との戦い、過激なイスラム原理主義勢力の台頭などに起因していたのとは対照的に、チュニジア政府を倒し、エジプトに広がった今回の反政府運動は一般国民、特に若者世代から自然発生的に生まれた。一人ひとりが自分の考えを表明したとき、驚くほど多くの人々が同じように考えていたことを発見し、その国民の意思を集合させて政治を形作っていく。エジプトで進行中の国民運動は、この点において、民主主義を奉ずる国にとっては否定出来ない性質のものだ。
とりわけオバマ米大統領にとって、一連の動きは自身の体験とピッタリ重なるのではないだろうか。2008年の米国大統領選挙は「史上初の電子メディアキャンペーン」と呼ばれた。ネットワークを駆使して、全国津々浦々から小口献金を集め、過去のいかなる大統領候補者よりも多額の政治資金を集めた。「イエス・ウィ・キャン」という短い標語で、幾千万の大衆の心を一つにまとめ上げた。
電子メディアを介して人々が一つの方向にまとまっていく点で、チュニジア、エジプト、オバマ大統領には共通の要素がある。だからこそ、オバマ大統領はムバラク・エジプト大統領に新たな政治体制への秩序ある移行を迫り、2月1日には異例の長時間にわたる電話会談を行い、「秩序ある移行」は「今すぐ始めなければならない」と、ムバラク大統領に伝えたのだ(「産経新聞」2月3日)。
エジプトは総人口8,000万人、アラブ世界と憎しみの戦いを続けてきたイスラエルとの和平を主導するなど、アラブ世界で主導的役割を果たしてきた。そのエジプトで、1981年以来、独裁体制を続けてきた現政権が、わずか1週間の国民運動で、まさに倒れようとしている。余波はすでにイエメンに表れた。
イエメンのサレハ大統領は2月2日、憲法の規定に基づいて13年の任期での引退を表明し、軍幹部である長男への権力移譲も行わないと表明した。こうした動きがヨルダン、シリア、スーダン、サウジアラビアなどの独裁的政権に大きな影響を与えることは避けられず、米国がどのようなかたちでエジプトに介入するか、ムバラク大統領がどのように政権を移譲していくかが、今後の中東情勢の帰趨を決する重要な要素となる。民主党上院議員で党外交委員会委員長のジョン・ケリー氏が、米国の第三世界との外交を以下のように振り返っている。
「フィリピン国民がマルコス大統領に退陣を求めた86年、われわれは自由を求める国民を支持してすばらしい協力関係を築いた。しかし、イランではパーレビ国王を長く支持し過ぎて惨憺たる結果になった」
民主党の外交政策を決定する重鎮も、独裁政権よりも国民の意思を重視すると明言しているのだ。
過激なイスラム原理主義勢力の一つ、ハマスは、エジプト最大の反政府勢力「ムスリム同胞団」から生まれた。米国は基本的に穏健なアラブの大国、エジプトを、過激なテロリスト国家に追いやらないためにも、エジプト国民の自由と民主主義への渇望を最大限受け止める外交を展開するだろう。
ネット革命で生まれる一連の体制変革を、より民主主義的な道理の通用する社会への転換とし、希望を持てる変化につなげていかなければならない。
一方、この動きを最も警戒しているのが中国である。中国は国民に対する情報規制をさらに強めるだろう。しかし、情報自由化の大きな流れに逆行する共産党一党支配体制の未来展望が暗いことは、変わらないだろう。
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