「 明らかに国交省案に傾く道路関係四公団の民営化案 小泉改革最大の試金石に 」
『週刊ダイヤモンド』 2003年12月13日号
新世紀の風をおこすオピニオン縦横無尽 522号
去る12月2日、道路関係四公団民営化推進委員会の田中一昭委員長代理と川本裕子、松田昌士の両委員が、辞任も考慮中であることを明らかにした。
小泉純一郎首相が国民の支持を受けてきた最大の要素は、「自民党をぶっ壊す」と言ったほどに、この国の悪しき制度を変えてくれるという期待からだ。その小泉構造改革の柱が特殊法人の見直しであり、その代表が、道路関係四公団の民営化である。
民営化推進委員会を立ち上げたときのキーワードは忘れるべくもない。“株式上場”だった。7人のメンバーを選び、会見した際、首相は「株式上場」と3度口にした、と言われたほどのこだわりようだった。
首相の意を受けた民営化推進委員会の意見書は、約1年間放置され、11月28日にようやく、国土交通省は民営化法案を3通り提出した。しかしそこには、田中氏らが猛然と反発する内容が書き込まれていた。
3案を仮にABCとする。いずれも、資産と債務を独立行政法人の保有・債務返済機構が持ち、新会社は機構から道路をリースして運用する上下分離案だ。
A案は、民営化推進委員会の意向に沿ったものであり、新たな高速道路の建設は新会社が決める。この場合、おそらく新しい高速道路は造られないだろう。今後着手する道路はいずれも採算を取りにくく、民間会社はそのような投資はしないからだ。したがって、新しい高速道路がどうしても必要なら、国の直轄事業として税金で造ることになる。
B案は、建設資金は新会社が市場で調達するが、できた道路は機構が買い取り、借金も機構に移される。不採算道路でも、事実上国の保証が付くために、銀行は融資するだろう。
C案は、高速料金をストレートに、新会社による建設資金に回すものだ。
民営化推進委員会の議論のなかで疾うの昔に捨て去られたBC両案が、国交省案として提出されたことに、田中氏は“厚顔無恥”という表現で憤った。
一方、日本道路公団新総裁の近藤剛氏は、就任直後の国会答弁で見事に正論を言った。「上下一体でなければならないと固く信じております」。さらに「新会社の自主判断」の確保も最重要事項だと。
だが、氏はわずか2日後大きく後退し、ついに12月1日、上下分離案を事実上受け入れた。民営化推進委員会の意向を無視した法案の提示と新総裁の発言の後退を見て、田中氏ら三氏が危機感を募らせた結果が辞任の意向につながったのだ。田中氏は配布資料で、「会社は上下一体、債務の早期返還、料金収入は建設費に回さない、地域分割、料金引き下げの五つの点を法案に入れよ」と要望した。この五点を軸とする法案にならない限り、委員会の意見は無視されたことになり、職を辞するとしている。
田中氏はこのような資料を記者団に配布して、辞職の覚悟で首相との会談に臨んだのだろう。
小泉首相は「私を信じてくれないのか」「意見を基本的に尊重する」と述べたと報じられた。首相は、本当に田中氏らの要望に応えることができるのか。
近藤新総裁の発言は、いまや基本的に国交省と道路族議員の主張と同じである。多少のニュアンスの違いはあっても、民営化推進委員会の猪瀬直樹氏の意見とも一致している。そして、猪瀬氏と石原伸晃国交大臣と近藤氏は、近藤氏の人事が決定した11月13日、電話で「3人で協力し合って仲よくやっていきましょう」と話し合った関係であると、猪瀬氏が『諸君!』1月号に書いている。
明らかに流れは国交省案に傾いている。この流れを小泉首相が変えて、田中氏らの正論を法案に反映させられるか。それができれば小泉改革は本物だが、これは掛け声だけに終わる危険性がある。