「 民主党が越えるべき壁は外交と安全保障政策 加えて自らの官僚的発想 」
『週刊ダイヤモンド』 2003年11月22日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 519号
「民主党が越えるべき壁は外交と安全保障政策 加えて自らの官僚的発想」
「民主躍進」ではあるが、よくよく見ると“勝った”とはいえない177議席である。同時に“敗れた”ともいえない民主党だが、政権を担うには、越えなければならない大きな壁がある。
「朝日新聞」の出口調査では、44%の人びとが、投票では「所属政党の政策・公約」を重視したと答えている。「候補者」を重視したのは34%だった。民主党に投票した人に限れば、「政策・公約」重視は59%、「候補者」は24%にとどまった(11月10日付)。
約6割が、政策や公約に期待して民主党に投票したのはすごいことだ。自民党支持者で、政策重視で投票したのは32%にとどまった。つまり民主党は、率でいえば、自民党の約2倍の人びとを政策で魅了したことになる。
民主党が大きく成長できる鍵が、ここにある。候補者全員が署名した「マニフェスト」に象徴される政策論議をもっと深め、具体的政策を訴え続けることだ。各党の公約を読み較べてみれば、民主党の公約は特に内政面において、自民党よりも優れていた。だが、戸惑ったのが、外交と安全保障政策である。
公約にはこう書かれている。「戦闘が続くイラクへの自衛隊派遣は行わず、イラク特措法は廃止を含め見直しを図ります」「イラク国民による政府が樹立され」「安保理決議がされた場合」に「憲法の範囲内で」「自衛隊も含めた支援に取り組みます」。
また、選挙期間中に菅直人代表は、沖縄で米海兵隊の移転と駐留なき安保を説いたと報じられた。岡田克也幹事長は、小泉純一郎外交を対米追従と批判した。
公約と党首脳の発言を合わせると、社民党の主張と重なってくる。だが、民主党のこの政策では、外交上、日本は失うもののほうが大きいだろう。米国紙で報じられたイラク国民の世論調査では、7割がフセイン政権の崩壊と米英軍の統治によって、五年後にはよりよいイラクが誕生すると答えている(「産経新聞」11月11日付)。
イラク国民による政府はまだできておらず、戦闘状態も続いてはいるが、イラク国民はフセイン政権の崩壊を喜び、米英軍への攻撃は、バグダッド北部に広がるティクリートなどの地帯に集中している。テロ攻撃は、イラク国民の大意を代表したものではないのだ。
ブッシュ大統領がすでに公言したように、米国はイラクで“テロとの戦い”を貫徹するだろう。イスラム過激原理主義の敵は米軍だけではない。すべての主権は神にあるとし、立法は神の専権事項と見做す唯一神教者の彼らにとって、国民に主権を与え、立法権を国民代表が構成する国会(議会)に与える民主主義そのものが敵なのだということを私たちは認識すべきだ。
そのテロとの戦いを続ける米国への支援はイラク国民への支援であり、日米間の絆の強化でもある。民主主義を是とする価値観への共鳴でもある。イラク特措法に基づく自衛隊派遣は、その意味でも重要なのだ。
民主党の外交安保政策が、こうした考えと真っ向から対立し、社民党的枠組みにとどまる限り、保守陣営に斬り込んで政権政党になるだけの票を自民党から奪うことはできないだろう。国家の運営を担うだけの責任ある外交安保政策を、導き出してほしい。
もう一つ、小さなことかもしれないが意外に重要だと思われることを……。選挙開票番組で、岡田幹事長が投票率の低さに言及し、投票しなかった有権者に、“反省してほしい”“あと5%投票率が高ければ民主党政権ができていたのに”と責めた場面があった。気持ちはわかるが、投票所に足を運ばせるような政治をするのが先決だ。上から見下ろすような物言いの前に、政治家自身が自らを省みることが重要だ。脱官僚政治を掲げた民主党自身、官僚的体質と発想から脱け出さねばならないゆえんだ。