「公明党の功罪を厳しく見つめよ 」
『週刊新潮』 2003年11月20日号
日本ルネッサンス 第94回
「池田大作さんが日本の天皇になるということですね」
今回の選挙結果をみてこう語るのは、サム・ジェームソン氏である。氏は長年米紙『ロサンゼルス・タイムズ』の東京支局長を務めた知日派のベテラン記者だ。現在は読売調査研究本部の研究員でもある。
9日、衆院議員選挙の開票開始から翌日未明まで、主としてNHKの報道を見たという氏はこうも語った。
「森喜朗前首相が、自民党単独で過半数の獲得は難しくても、連立与党では大丈夫だとコメントしたと報じられました。自力で過半数を目指さず、諦めているかのような考えは、政党としてはおかしい。昔の社会党のようで、私はまさか、自民党がそんな諦め精神に蝕まれているとは思いませんでした」
森前首相のコメントは、恐らく、テレビ各社の出口調査で自民・民主伯仲との予測をみて発せられたものであろう。結果として誤報に終わったテレビ局の数字は、誰もが驚く自民党凋落を示していたからだ。
それにしても、ジェームソン氏のコメントは意味深長である。
総選挙が終わり、わずか7名の少数政党になった保守新党が早々と自民党に合流、与党は自民・公明の二党連立となった。政界は名目上も実態上も「自民」VS「民主」ではなく、「自公」VS「民主」となったわけだ。「自公」は、肩を寄せ合い助け合ってきた関係から、さらに深入りし、今では合体した姿である。
自公連立は野中広務氏が自由党の小沢一郎氏に「平伏す」ことも厭わないとして説得し、自自連立を組んだ時から始まった。自公2党の連立では摩擦も抵抗も強すぎると判断した野中氏らが、まず、小沢自由党と連立したのは周知のとおりだ。その年の夏の党大会で公明党は連立への参加を決め、自自公与党が誕生したのが4年前だ。その後、与党は自公保となり、今、自公になった。
自民81人が公明票で当選
この4年間に公明党へのアレルギーも薄れつつあり、自民党の公明党依存度は高まるばかりだ。公明党は前回は161人の自民党候補を支持したが、今回は198人にふえた。党として自民党候補者を推薦しない場合でも、公明党の候補者がいない選挙区では公明党支持者の票は明らかに自民党候補者に流れる傾向がある。一例が東京3区である。
3区は石原慎太郎都知事の三男、宏高氏が立候補し、全国的に注目された。相手方有力候補は民主党の松原仁氏である。両氏は接戦の末、松原氏12万2181票、石原氏11万3494票で、松原氏が8687票の差で勝った。『朝日新聞』の出口調査では、公明支持層の72%が石原氏、松原氏には17%が投票したと答えた(11月11日35面)。
『朝日』は、東京3区の公明支持層が全体で何万票なのかは示していないが、仮に2万票として、72%の支持は1万4400票、3万票として2万1600票になる。机上の計算ではあるが、各選挙区毎に1万票、2万票単位で公明党支持層の票が動く状況だけは、見えてくる。各選挙区での公明票の重みがどれだけのものかも、十分に実感出来る。
その公明票を11日の『毎日新聞』が分析していた。公明支持層の票が全くなかった場合、自民党議員はどれだけ減るかという分析だ。
公明党は今回、小選挙区には10人しか立てなかったため、小選挙区の公明票は自公連立の枠組みの中で大半が自民党に流れた。その数を『毎日』の出口調査は61%とし、前述の『朝日』の出口調査は58%とした。約6割とみればよいだろう。
出口調査に基づいた『毎日』の分析では、公明支持票がなければ、今回の168人の自民党小選挙区の当選者の内、実に半分近くの81人が落選していたというものだ。
前回の総選挙では公明党は161人の自民党小選挙区候補を支持し、42人が公明党の支持で当選したとされた。今回は支持候補198人で公明党支持による当選者は81人と見られるわけだ。自民党の公明党依存が早いスピードで高まっていると考えなければならないだろう。
置き去りにされた憲法20条
ここで異を唱えるのがジェームソン氏である。
「公明党の支持なしでは81人が落選という数字を額面どおり信じるのですか。81人を支持しないとき、その票は一体どこに行くんでしょうか。必ずしも自民党の対立政党に行くとは限りませんよ」
東京3区の場合、前述のように石原氏に入れた公明党支持者は72%。公明党が石原氏支持を打ち出したわけではないにもかかわらず、石原ブランドの効果か、石原氏は公明支持者の票を平均値よりも多く集めた。公明党の推薦の有無が全てを決するわけではないのだ。また、72%もの公明支持票を集めながら、それでも勝てなかった石原氏の例は、72%もの公明票をとられながらも勝った松原氏の善戦振りを浮き彫りにした。自民党議員に求められるのは、東京3区の民主党若手議員が必死に戦ったその気概に学ぶことではないのか。
選挙後、保守新党が合流し、加藤紘一氏はじめ、無所属候補を追加公認して自民党はすでに244議席を押さえ、単独過半数を確保した。数の上では自立出来ても、各選挙区の公明党依存が強まれば、自民党は質的に本来の自民党ではなくなるだろう。自民党の政策は公明党の影響を強く受けざるを得なくなり、自民党は質的変化を迫られる。自民党が自民党らしさを修正せざるを得ないなら、自公連立は本末転倒に陥る。手段が目的となってしまう。
すぐに直面するのは、憲法改正と教育基本法改正である。公明党は教育基本法改正に反対だ。憲法改正は環境権などを盛り込む「加憲」にとどまり、最重要の9条改正は公明党は考えていない。また、道路公団改革でも、小泉首相と公明党の主張は一致していない。いずれも、国家としての枠組みに直結する大きな問題であるにもかかわらず、両党間には大きな差がある。
ジェームソン氏が切り込んできた。
「なぜ、日本人は憲法20条を置き去りにするのですか。20条は信教の自由を保障し、同時に宗教団体は政治上の権力を行使してはならないと書いているではありませんか。このことを指摘する勇気は、日本人は持ちあわせていないのですか」
的を射た批判だ。創価学会を好きな人も嫌いな人も、学会が宗教団体として人々の心を支えてきたことは認めるだろう。その意味で学会は、人間の心の救済について他の宗教団体より力を尽くしていることは評価されてよい。しかし、学会が宗教団体の矩を踰えて政治団体と一体化したかのような現状には、疑問を抱かざるを得ない。自民党が自公連立で事実上公明党化してしまわないためにも、いま、公明党の功罪を、原点に戻って、厳しく見つめよ。