「 国際潮流を読み違えるな イラクへの自衛隊派遣は日本にとって正しい決断 」
『週刊ダイヤモンド』 2003年10月25日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 515号
自民党幹事長の安倍晋三氏は10月14日、イラク復興のために「できるだけ早い段階で自衛隊を出すべきだ」と述べた。かたや民主党は、国連決議のない現段階では、自衛隊の派遣に消極的だ。11月9日の総選挙を前に、自衛隊派遣とイラクの復興、再建費用の協力を含めて、自民、民主両党の安全保障政策を比較すると、どうしても民主党の政策には疑問符が付く。
イラク問題でブッシュ政権は今、どこに立っているのか。米国の政策によって世界はどのように変わろうとしているのか。それを考えれば、安倍幹事長の主張は妥当である。戦争終結宣言後もテロ攻撃が続き、ブッシュ政権への支持率は確かに急激な下降ラインをたどっている。だが他方で、イラク復興とテロとの戦いの大枠も整いつつある。
10月9日、米国下院の歳出委員会は、ブッシュ大統領が求めていたイラク追加予算の870億ドル(110円換算で約9兆5600億円)を、満額に近いかたちで可決した。下院は同案を本会議で採決したあと、上院と調整に入る予定だ。
ブッシュ大統領の求めた870億ドルについては、膨大過ぎる、根拠が不足しているなどとの反対意見があった一方で、9月11日の「ウォールストリート・ジャーナル」はその社説で、「2度目の9・11による損害と比較せよ」「米国人は悲劇の反復を避ける手立てとして、870億ドルは安いものであることを思え」というように、ブッシュ大統領の要請に対する強烈な支持を展開した。
イラク問題で鋭く対立した独仏露3国も、明らかに対応が変わりつつある。プーチン露大統領は9月27日、キャンプデービッドでブッシュ大統領と首脳会談を行ない、米国に協力を約束した。「イラク復興に多国籍軍を派遣すべし」という米国の決議案が国連で了承されることを前提にしながらも、プーチン大統領は「ロシアは国際社会と共通の任務を持つ」「イラクの正常化が必要」と述べ、米国への協力姿勢を強調した。イワノフ露外相も、地雷の撤去などでロシア軍を派遣すると示唆ずみである。
そしてドイツはもっと劇的に変化した。シュレーダー首相自ら、9月22日に「ドイツ人はテロとの戦いにおいて米国人と手を携える。われわれは結束して、勝利を手にする」と発表した。同首相は、ドイツがこれまでアフガニスタンでどれほどの戦いを米国とともに勝ち抜いてきたかを強調し、バルカン半島でも、ドイツ軍は米軍と緊密に連携して戦ったと詳しく紹介。加えて、ドイツが今、東西の分断から立ち直り、統一国家として「平和で繁栄した安全な」欧州に住んでいられるのは「米国の友情、展望の確かさ、政治の決意」によるものだと絶賛した。
こうした一連の言葉のすえに、シュレーダー首相は「我々はすべてを一緒に行わなければならない」と結論づけた。イラク戦争開始時のあの頑なな反米姿勢は消え失せ、米国への擦り寄りともいえる態度へと、ドイツは豹変したのだ。
米国は10月14日、イラクへの多国籍軍派遣と復興・再建費用を求める決議案を再修正して国連に提出した。週内に採決を求める米国に、フィッシャー独外相は早くも、「明らかに正しい方向へのさらなる一歩」と評価の言葉を贈った。ロシアも支持するだろう。
フランスは、イラクへの統治権の移行期などをめぐり注文をつけるにしても、拒否権を使うことはないと見られている。米国のイラク政策は、ブッシュ大統領の説明のように、「皆が考えているよりずっとよい状況」なのである。
日本の立場と国益を考えるとき、フセイン時代のイラクを否定し、新しい国家建設に向かおうとする国際潮流を、読み違えてはならない。イラクへの早期の自衛隊派遣と助力は、日本にとって正しい決断なのだ。