「 日本も米韓合同軍事演習に参加し 北朝鮮の脅威に備えるべきだ 」
『週刊ダイヤモンド』 2010年12月4日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 865
11月23日、北朝鮮が韓国の延坪島(ヨンピョンド)を攻撃、民間人2人を含む4人が死亡した。攻撃は午後2時34分に始まり、最終的に3時15分に終わったと、韓国国防省は発表した。170発以上が撃ち込まれた戦闘のすさまじい映像は、朝鮮半島が緊張の半島であることを、あらためて突きつけた。
「統一日報」論説委員の洪熒(ホン・ヒョン)氏は李明博大統領の対応では、北朝鮮を牽制することは出来ないと説く。
「李大統領は、今回、まず戦いを拡大させないことが大事だと言いましたが、軍事の力学を理解していません。3月の哨戒艦、天安撃沈事件のとき、国防部は北朝鮮による攻撃だと判断しましたが、大統領は『予断』を持つべきではないと言って国防長官の発言を否定しました。現実に向き合えなかった。今回も同じです。戦闘不拡大には、それだけの構えを、こちら側がつくらなくてはいけません」
北朝鮮のさらなる暴挙を抑止する構えをつくる点で、米国の反応は素早い。攻撃から4時間後の午前4時半、米国政府は北朝鮮の攻撃を強く非難する声明を発表した。原子力空母ジョージ・ワシントンも参加する大規模な米韓合同軍事演習を今回の戦闘の海、朝鮮半島西側の黄海で行うことも即決した。期間は11月28日から12月1日までだ。
黄海での米韓合同軍事演習は、天安事件直後にも計画されたが、中国が反発し朝鮮半島東側の日本海に場所が変更された。中国の眼前の黄海に米国軍艦、とりわけ空母が入ることに、中国が強い拒否を示したのだ。北朝鮮の非道な攻撃が皮肉にも黄海上での米韓軍事訓練に妥当性を与える結果となった。
国際社会の北朝鮮非難のなかで、中国は「きわめて残念」だとしながらも「南北双方に自制」を求め、事実上、北朝鮮を支え続けている。朝鮮半島で、今後中朝がさらに結束し、米韓との対立が深まる危険性は否定出来ない。日本の安全保障に直接かかわるこの重大事態に菅、仙谷内閣がどう対処しようとするのかが、まったく見えてこない。
菅直人首相は、後に言い換えたが、当初南北朝鮮交戦の情報を「報道で知った」と語った。首相が公邸から官邸に移ったのは交戦から2時間あまりも後の午後4時44分だ。首相への情報伝達は明らかに非常に遅かったのだ。
首相は8時55分に関係閣僚会議を招集、9時48分に仙谷由人官房長官が北朝鮮非難と韓国政府への支持を発表した。米国政府が早朝一番に行った意思表示を、日本政府は7時間以上もかけて、ようやく、行った。
北朝鮮の脅威は日本にとってはきわめて深刻で、他人事ではない。北朝鮮は1998年にテポドンを日本列島の太平洋側に撃ち込んだ。昨2009年4月5日にもテポドン改良型が太平洋側に撃ち込まれた。同じく昨年7月4日にはスカッドミサイル3発が日本海側に撃ち込まれた。日本周辺の海への攻撃が陸地目標に変更されることは十分にある。韓国への無謀な攻撃は、日本への無謀な攻撃にもつながる。加えて北朝鮮はすでに核弾頭の小型化に成功している可能性もある。核搭載ミサイルによる対日攻撃の危険性は否定できないのだ。政府が最悪の可能性を考え、万全の体制をつくっておかなければならないゆえんである。にもかかわらず、菅政権は今回、国家安全保障会議を開かず、関係閣僚会議だけで終わった。軍事的知識を持つ自衛官を会議に参加させない関係閣僚会議だけでは、北朝鮮の脅威への十分な対策を論ずることは出来ないだろう。
北朝鮮の軍事的脅威と、今回の攻撃を、あらゆる面から検証し備えることが必要だ。合同軍事演習に象徴される米韓の軍事的、物理的な協調関係に日本も参加し、よって立つ基盤を強化すべきときだ。菅、仙谷両氏の自衛隊を「暴力装置」と見なす姿勢では日本を守ることは出来い。