「 政党を超えた共通点 “改革志向”支持が示した埼玉県知事選挙の重み 」
『週刊ダイヤモンド』 2003年9月13日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 509回
変化は目に見えて、地方から起きている。あらためてそう感じるのは、8月31日の埼玉県知事選挙の結果からである。
“土建王国”といわれたあの埼玉県で、民主党出身の上田清司氏が圧勝した。80万票を超える得票は、2位の嶋津昭氏の45万票のほぼ倍である。公明党の支持を得た浜田卓二郎氏の21万票、あるいは優秀な官僚であり、私の尊敬する友人でもある坂東眞理子氏の20万票のほぼ4倍だ。
“伝統的”なゼネコン業界の組織票も、しばしば当落を決定する切り札となる公明党の票も、そしてまた、嶋津、坂東両氏に象徴される官の力も、今回は効果を発揮できなかったのだ。
加えて興味深いのは、各種の調査で、小泉内閣を支持する人の票が、自民党候補の嶋津氏よりも上田氏のほうに、より多く流れたことである。朝日新聞の出口調査によると、小泉内閣支持者の36%が上田氏に、32%が嶋津氏に投票したことが見えてくる。有権者は、小泉純一郎首相と嶋津氏よりも、小泉首相と上田氏のあいだに、より多くの共通点があると感じたことになる。共通点は、ひと言でいえば“改革志向”である。
国民が、伝統的な自民党支持者も含めて、現状を変えなければならないと感じていること、そのためには小泉首相の構造改革路線が必要だと考えていることは、読売新聞が8月末に実施した全国世論調査でも明らかである。
同調査は、自民党への支持率が35.7%にとどまるのに比べ、小泉政権への支持率が57.7%に上ることを示し、さらに65.9%が小泉首相の再選を望んでいることを示した。党への支持と首相への支持は22ポイント以上も離れている。
確かに、小泉再選を望む理由として有権者は、76%が「ほかにふさわしい人物がいないから」と答えながらも、「改革の成果が期待できそうだから」「改革に積極的だから」と答えた人は47.5%にも上る。
改革を望む声は、永田町で行なわれている政治と国民の望む政治が、なぜ、こんなに離れているかを訝(いぶか)っているのである。国になにかをしてもらえないから不満だという類いのことだけではないのだ。その証拠に、景気回復やデフレ克服のためとして、政府の大幅財政出動や、各業界への手厚い保護を打ち出し、小泉政権の政策転換を求めている亀井静香氏や野中広務氏らへの期待値は、読売調査によると、おのおの4.6%、3.6%などの低い数字にとどまっている。
政治が必ずしも国民の想いを反映してくれないのはなぜか。理由は、政治が政治家の手から官僚の手に移っているからではないか。国立大学法人化や住民基本台帳ネットワークが、いったいどれだけの国民の支持を得ているのか。取材してみれば、圧倒的多数が疑問を持ち、反対している状況が見えてくる。だが、法案は官僚が作成する。政治家は官僚によって説得されてしまう。どう考えても不合理な政策によって、日本国の力が殺(そ)がれ、税はムダづかいされていく。
こうして、政治が国民の希望とは異なる方向へ進んでしまうのだ。そのことを実感する国民は、だからこそ、これまでの体制を支えてきた与党的価値観をも否定するのだ。
上田氏は脱官僚を掲げ、情報公開を宣言した。“土建王国”の埼玉県で、巨額の公共事業を軸に築かれてきた行政の縦構造を変えていくという。中央省庁とのつながりのなかで、不合理な税のムダづかいを続けることは許さない。その改革プロセスを、情報公開によって県民に見せていくということだ。上田氏はまた、住基ネットの廃止を含めた見直しを公約した。2兆8000億円の赤字を抱える埼玉県であればこそ、税のムダづかいの典型である住基ネットを、知事としてどう見直していくか、見届けたい。