「 民主党の口約束では国はもたない 」
『週刊新潮』 2010年7月15日号
日本ルネッサンス 第419回
民主党の参院選用の「マニフェスト2010」を見て、驚いた。
「民主党政権がこれまで取り組んできたことを報告します」として、「実現したこと」が55項目列挙されている。「羊頭狗肉」を絵に描いた内容だが、とりわけ酷いのは「口蹄疫対策」「日米同盟の深化」「アフガニスタン支援」などを、実現した成功事例として掲げていることだ。
この話を、鹿児島県の畜産農家関係者に伝えると「よく、そんなことが言えますね」と、興奮気味で語った。私はこの農家の方に4月22日に取材をしたが、物静かな穏やかな人が、改めて憤りを込めて語った。
「民主党は完全に失敗したのです。彼らの対策では全然ダメ。だからこそ、まだ、口蹄疫は終息していない。この町では市長も畜産農家も皆、同じ意見です。民主党が特別対策を実施したと言いますが、あれは全て自民党が彼らのノウハウを教え、ハッパをかけてやらせたものです。民主党の責任は大変重いんです」
口蹄疫問題が発生したとき、民主党の直接の責任者である赤松広隆農水相は9日間にわたる中南米諸国への外遊に出掛けたのであり、結果、対策が後手後手になって28万8千頭を超える牛や豚が処分されたのは周知のとおりだ。
日本は2000年にも口蹄疫を体験した。当時、自民党は直ちに取り組み、宮崎県と北海道で740頭の牛を処分して完全に沈静化させた。民主党はそのときの実に389倍もの家畜を殺処分にする結果を招いた。しかも、7月4日にはまたもや宮崎市で新たな口蹄疫の牛が見つかり、未だに完全沈静化は達成出来ていない。こんな事態を引き起こしておいて、口蹄疫対策をやり遂げたかのように宣伝するのでは、農家の人々が怒るのは当然である。
「日米同盟の深化」も成果としているが、本気なのか。自民党は13年余もかけて、ようやく辺野古沿岸部への基地移設に漕ぎつけた。たしかに余りに時間がかかりすぎており、自民党は厳しく批判されて然るべきだ。
実に恥ずべきこと
だが、米国も沖縄も了承させてようやく纏めた自民党案をひっくり返したのが鳩山民主党である。その鳩山民主党の副総理は菅氏だった。
菅氏は「日米関係を重視する、日米同盟を深化させたい」と言う。その第一歩として、普天間問題を解決しなければならないのは明らかだ。しかし、いまや普天間の解決はどう考えても非常な困難を伴う。そこで菅首相はこの問題を選挙後まで封印した。問われれば答えに窮し、立ち往生は避けられないからだ。それを成果だとして掲げるのは、口蹄疫と同じく看板に偽りありである。
「アフガニスタン支援」も同様だ。アフガンでは米国を中心に、テロとの戦い、治安維持、民生の安定などで、多くの国が活動をしている。他方、民主党は今年1月15日に海上自衛隊による補給活動を中止して50億ドル(約4,500億円)の支援を決めた。湾岸戦争当時、130億ドルの資金提供で済ませ、世界の顰蹙を買ったのと同じことだ。それを成果として掲げるのは、実に恥ずべきことである。
民主党にとって不利な課題を避けて、首相が提唱したのは日本経済再活性化のための「第三の道」だった。マニフェストの冒頭にも大書されている「第三の道」とは「公共事業中心の経済政策(第一の道)」や、「偏った市場原理主義に基づく経済政策(第二の道)」ではなく、「環境問題や少子高齢化」などを解決し、「観光分野など」に積極的に挑戦し、「雇用を拡大」して「強い経済、強い財政、強い社会保障」の「好循環」の中で経済成長を実現するというものだ。
その結果、2020年度までに、名目成長率で「3%超」、実質成長率で「2%超」を達成すると、マニフェストにある。首相は消費税の10%への引き上げも打ち上げた。
増税を通して財政再建を行い、同時に経済成長を達成出来れば、世界経済のお手本になれる。それほど難しいことを菅首相はサラリと約束したのである。しかし、安請合いほど恐いものはない。鳩山前首相も確証のない無意味なことを口走ったが、菅首相も同様である。
消費増税を打ち上げるとき、責任回避を考えてか、「自民党案を参考にする」との前提をつけた。しかし、評判が芳しくないとみると、すぐに、「議論することを提唱しただけだ」と発言を後退させた。
低所得者への配慮として、消費税還付を打ち上げたが、その対象が、「(年収)200万円とか300万円とかの人」から「300万円とか350万円とかの人」、さらに「300万円とか400万円とかの人」と、同じ日に目まぐるしく変わった。
年収400万円以下なら全世帯の半分近くだ。その人々に還付するとなると、膨大な事務費、人手、時間が必要で、消費税増税分が帳消しになるとの試算もある。
「成長は無理」
税の問題を取り上げるときは余程の覚悟と、強い信念が必要だ。国民に向かって、必ず、成果を出し、財政を改善してみせる、いまの苦しみは必ず将来の安定とより明るい展望をもたらしてくれると、説得しなければならない。そのためには説得する首相自身が完全に納得していなければならない。
菅首相には、その確信も信念もないために、批判されるとすぐに発言がブレるのだ。それでも改めて、第三の道の可能性を見てみよう。
シンクタンク「国家基本問題研究所」の企画委員で東京国際大学教授の大岩雄次郎氏が指摘した。
「菅さんは成長政策を実施して、5年を待たずに基礎的財政収支の赤字をGDP比で半減させる、その上で20年度までに黒字にするなどと、目標を掲げています。
けれど、具体策が全く、示されていないのです。菅さんは医療、介護、福祉、環境で雇用を増大し、所得を増やし、経済を拡大させていくと、選挙演説で盛んに喧伝していますが、これらの分野が日本の経済成長のリーディングセクターとなり得るか、疑問です」
経済成長を促す三大要素は生産性の高さ、資本の量、労働の質である。しかし、と大岩氏は言う。
「医療、介護は、その高い需要にも拘らず、生産性は全産業の平均値に比して50%、半分の低さです。典型的な労働集約型産業ですから、これは致し方ありません。
資本も、日本の現状では、金融財政政策の動員は困難です。また人口減により労働力は減少し、その質的向上も楽観出来ません。このような状況では、2%の実質成長は無理だと思います」
理念も論理も曖昧な妥協的政治では停滞から脱することは出来ない。菅氏の第三の道の公約も絵に描いた餅にすぎないということだろう。
[…] 「民主党は完全に失敗したのです。彼らの対策では全然ダメ。だからこそ、まだ、口蹄疫は終息していない。この町では市長も畜産農家も皆、同じ意見です。民主党が特別対策を実施したと言いますが、あれは全て自民党が彼らのノウハウを教え、ハッパをかけてやらせたものです。民主党の責任は大変重いんです」” — 櫻井よしこ ブログ! » 「 民主党の口約束では国はもたない 」: 2010年… […]
ピンバック by “>櫻井よしこ ブログ! » 「 民主党の口約束では国はもたない 」: 2010年07月15日 | 暴悪 — 2010年07月24日 11:27