「 不審船への対応で見えてきた日本の主権国家としての自立 」
『週刊ダイヤモンド』 2002年1月12日号
オピニオン縦横無尽 第428回
日本はようやくトラウマから脱皮できるのか。そんなことを感じさせられたのが暮れの22日、奄美大島沖で発生した不審船事件での日本側の対応だった。
自国の排他的経済水域や領海内で不審船を発見した場合に、韓国や中国や米国やその他の国々が通常とると思われる行動を日本もとったのが、今回の事件である。どの国も、不審船を発見すれば臨検する。そのために停船を命じる。応じない場合は威嚇射撃をするというふうに段階を踏んでの対応は、国際社会の通常のルールである。
今回、彼らはロケット砲まで撃ってきた。偵察衛星からも発見されにくい携行の武器としては最大級に威力のあるもののひとつだ。防衛庁は、彼らが北朝鮮の朝鮮労働党の周波数を使って無線通信していたことを突きとめていたと報道された。鹿児島県喜界島の通信傍受施設で傍受した通信から判明したそうだ。
だとすると、この船は北朝鮮の船とほぼ、特定されたことになる。
問題は、このような、いわば動かぬ証拠が出されてくるより前に、大多数の人びとが、また北朝鮮の犯行かと直感するような状態が、何年間もずっと続いてきたことだ。そして、その状態が事実上放置されてきたことである。
1998年の能登半島沖の不審船出没のとき、毎日新聞は日本近海には不審船は「ウジャウジャいる」と書いたほどだ。また、3年前、朝銀愛知から17億5000万円を横領されたとして名古屋地裁に訴えを起こした在日朝鮮人で元朝鮮総聨の幹部の朴日好(ぱくいるほ)氏も、巨額の現金の運搬手段として“ほぼフリーパスの海上手段がある”と述べた。
また私たちは、日本の海岸のそこここから、多くの日本人が超高速の船で拉致されていったことを知っている。
今回の海保の行動は、もはやそうした悪事は許さないという明確なメッセージを送ったことになる。今後、日本はどんな対応策をとるべきだろうか。従来のパターンでいえば、表向きは国家としてとるべき方程式を掲げても、その裏で常に特定の政治家や利権につながっていると思われる人びとが暗躍した。それがこれまでに北朝鮮に送った117万トンのコメであり、多額の援助でもあった。今回は、このような裏の動きは、断じてしないことだ。そのうえで、取引はしないという揺るがぬ意志を示し続けることだ。
そうしたとき、北朝鮮はどんな態度に出てくるのか。それによって日朝関係はどんな影響を受けるのか。
あの国の現体制が、誠意や友情や人類愛によって動くことはほぼ考えられないことは、金大中氏との劇的な南北会談後も、まったく北朝鮮側に変化がなかったことからも明らかだ。あの国を動かしうるのは、現実的すぎるほど現実的な力関係と譲らぬ国家意思だ。
そうした体制の国に対しては、主権国家としての意思の堅固さを示し続けるしかない。拉致を棚上げにした出口論も、あらゆる妥協も、すべて失敗した果てに、日朝関係の厳しい事実が告げているのは、じつはそのことなのだ。
しばらく前の日本なら考えられなかった不審船への実力による反撃は、近隣諸国の日本を見る目に惑いと変化をもたらしているはずだ。しかし、そのような国々には、明確なメッセージを送ればよい。日本は主権を守り国民を守るための正当な行為に出ただけであり、このことが日本のさらなる拡大主義、いわんや軍国的傾向への偏向を意味するものではないのだと。
そして私は、戦後60年間近く、主権国家として行動することを恐れてきた日本が、今回の行動などを通じて、国民や主権を守ることの実際的な意味を実感できるとしたら、それは21世紀の日本の真の自立への風穴となるかもしれないと考えている。