「 自民保守勢力は今、石破氏と戦え 」
『週刊新潮』 2025年9月11日号
日本ルネッサンス 第1162回
「8月31日、官邸前でデモがありました。石破辞めろ!のデモです」
長年の読者が弾んだ声で語った。
「僕も参加したかったけれど、行けなかった。けれどこの前の『石破辞めるな』デモよりずっと大規模で、嬉しいです」と読者氏。
ユーチューブで動画を見ると、多勢が官邸前に集っている。そこにおさまり切れない人々が列を成し、その列は官邸前の信号でメディア各社の事務所がある国会記者会館方向に右折し、衆議院第二別館をすぎて、この大きなブロックをグルリと巡る形でのびている。財務省上の信号で再び右折し、枝葉を切られて頼りない姿となっている銀杏並木の続く下り坂を辿って、内閣府下まで続いていた。日の丸の小旗を振る人々の群れは比較的若い世代が目立っていた。
『産経新聞』の奥原慎平記者が参加者は主催者発表で4000人、7月下旬の「石破辞めるな」は同1200人だったと報じた。
奥原記者が記事で取り上げたデモ参加者4人の内3人が「人生で初めてのデモ」だと語っている。官邸前では、SNSでデモを呼びかけた主催者がマイクで何やら演説していたが、その声が届かないはるか後方まで列に連なる人々は、ひたすら並んでいるだけなのである。デモ慣れしていない人々の集団なのが見てとれる。
彼らの姿を見ながら、私は暗殺された安倍晋三総理を偲んで献花するための長い列に、何時間も静かに並んでいた人々のことを思い出した。
「石破辞めろ」デモは9月21日にも行われるそうだが、メディアはこれをどう伝えるだろうか。左派のリベラル集団による「石破辞めるな」デモはテレビが度々取り上げた。ワイドショーのコメンテーターらの、国民の真意は「石破辞めるな」にありという主張を支える材料のひとつとなった。少なくともそのデモの3倍超の規模に達した「石破辞めろ」デモを、既成メディアはまともに伝えるのか、疑問である。
既成メディアの石破擁護
既成メディアの石破擁護は続く。9月1日、『日本経済新聞』が「内閣支持42%、10ポイント上昇」「総裁選前倒し『不要』52%」の見出しで世論調査の結果を報じた。石破氏の支持率は今年2月以来の4割台に回復し、石破氏辞任につながる自民党総裁選挙の前倒しに否定的な人が52%、肯定的な人は39%だそうだ。石破内閣を支持する理由のトップが「首相の人柄が信頼できる」となっていたことに、私はつい、笑った。石破氏ほど邪(よこしま)な性格の政治家を私は見たことがないからである。
世論調査問題に詳しい「サキシル」の編集長、新田哲史氏が世論調査自体が世論の変化に追いついていないと語る。
「日経の調査に限らず、ひとつの世論調査を元に支持率が上がった、或いは下がったと断ずるのは意味がなくなっています。理由は世代別の傾向に顕著な違いが生じているからです。日経の調査では30代以下、40代と50代、60代以上でくっきりと分かれています。30代以下は石破氏辞任につながる総裁選前倒しに賛成が57%、反対が35%です。40・50代は47対46、60代以上は26対65です」
30代以下と60代以上の考えが正反対になっている。日経調査は更に、石破続投容認は自民支持層の85%を占め、辞めるべきは12%だったこと、立憲民主党支持層の8割弱が石破続投を容認していることも明らかにした。
他方、国民民主党と参政党の支持者は各々63%が総裁選前倒しに賛成と回答した。新田氏が指摘する。
「日経を含めて各社の世論調査で明らかになったのは、自民党の支持層はもはや必ずしも保守ではないという事実です。保守層は自民党を離れて国民民主、参政、さらには日本保守党、はたまた維新などに散らばったということでしょう」
新田氏はまた日経の調査結果はそれ自体矛盾を内包していると語る。
「次の首相は誰がよいかという項目ではトップが高市早苗氏、2番手が小泉進次郎氏で、3番手の石破氏にかなりの差をつけています。自民支持層、無党派層に分けて集計しても石破氏が3番手であることは変わりません。特定のひとつの問いへの答えで石破支持の高い数字が浮上したからと言って、全体的に支持が不支持を上回っているとは断定しにくい現実が生まれています」
横浜商科大学の田中辰雄教授の分析が核心をついている。氏はこの1年間に行われた衆議院と参議院の選挙に関して18~79歳の1855人に3回、同じ人に継続して調査を行った。回答者の年齢別構成が人口×投票率の比率に等しくなるように調整した。
その中で石破首相は辞めなくてもよいと答えた42%の人(731人)はどんな人なのかを調査した。結論から言えば支持政党別に見ると自民党の支持者は22.7%だけであった。参議院選挙で自民党に投票した人は21.4%。いま選挙があるとしたら比例区で自民党に投票すると答えた人は22.8%だ。
自民再生の道
つまり、石破首相に辞めなくてよいと言っている人の約8割は自民党の支持者ではなく、自民党に投票した人でもなく、これから自民党に投票する人でもない。およそ自民党には投票しない人々だというのだ。
自民党政調会長代行の新藤義孝氏が語った。
「改めて確認されたのは、自民党支持層から多くの保守の人々が離れていったという厳しい現実です。残っている人々の中にはリベラル派、夫婦別姓や女系天皇を唱える人たちが少なくない。自民党は保守層を中心とする党ではなくなった。だからこそ私たちは本来の保守的価値を守り、日本の国柄を守りながら発展していくために新総裁を選ばなければならないと、気を引き締めています」
本稿は2日の自民党両院議員総会で総裁選挙が前倒しとなるか否か、その結末が明らかになる前に書いているが、私は選挙は前倒しで行われると確信している。総裁選前倒しには自民党都道府県連47と、国会議員295人の半数以上、合計172以上の票が必要だ。
私の得た情報では、8月31日時点で20の県連が前倒しに賛成だった。9月1日の今、その数は23に増え、全県連の半数以上の賛同は得られる見込みだ。国会議員の動向については、旧派閥毎の集計が、私の手元にある。全体の半分以上の議員の賛同は可能だと思う。
それでも朝日をはじめとする新聞、共同通信、そしてテレビ局は各種世論調査の数字にとらわれて石破氏の続投を世論が支持しているとの立場で論ずる。これらのメディアは日本国の政治の変化を的確にとらえていない。自民党議員は各社の掲げる数字ではなく、地元の人々の声に耳を傾けよ。日本国の未来はリベラル勢力ではなく保守勢力が切り開くと決意して、全力で戦う時だ。石破氏辞任を実現することから、自民再生の道は必ず開けていく。
