「 沖縄を中国に隷属させる玉城知事 」
『週刊新潮』 2023年7月27日号
日本ルネッサンス 第1058回
沖縄県知事の玉城デニー氏は中国の李強首相と対話して天にも昇る心地になったのだろう。沖縄独特のカチャーシーという踊りではじけてしまった。カチャーシーは祝いの席のシメの踊りで、通常はその場にいる全員が参加する。しかし玉城氏は一人で踊り続けた。全身で喜びを表現し、大きく踏んだステップでいまにも宙に舞い上がりそうに見える。余程嬉しかったのだろう。
玉城氏は河野洋平氏が会長を務める日本国際貿易促進協会の一員として訪中し、7月5日、北京で李首相と会談した。記念撮影のとき、中国側は玉城氏を李首相の左側に、河野氏を右側に配した。左大臣は右大臣より位が上で、最大級のもてなしだ。
中国側から高く評価された玉城氏だが、地元沖縄での評判は芳しくない。尖閣諸島を所管する石垣市の中山義隆市長が首を傾げた。
「玉城知事の中国における言動は納得できません。尖閣諸島にほぼ毎日、中国海警局の艦船が侵入しています。八重山の漁民が漁に行けば中国船から追いかけられます。日本国の島と海で石垣市所管であるのに、です。そのことに知事は一言も抗議しませんでした。石垣市の人達はみんな怒っています」
玉城氏は尖閣問題は国と国とが話し合うべき課題で「今回、特に尖閣の話は出なかったので、私からも特に言及することもなかった」と、まるで他人事のように語っている。
台湾有事は日本有事だ。中国の尋常ならざる軍拡を日々目にして、沖縄県民は中国の侵略を恐れている。与那国町や石垣市を筆頭に沖縄県全体が有事勃発の不安に直面している。こうした県民の不安を中国に説明して自制を促し、尖閣の海から出ていくように物申すのが沖縄県知事としての責任だ。
だがそのようなことは一言も言わない。中国に抗議するどころか、玉城氏は李氏に中国・沖縄間の直行便をふやしてほしいと要請した。また沖縄から中国を訪問する際に県外の総領事館でビザを申請しなければならないのは負担だと訴えた。これに対して「環境改善を進めたい」との回答を李首相から引き出した。
沖縄に総領事館開設を切望
ここには深い意味がある。かねて中国は沖縄に、中国総領事館を開設することを切望してきた。他方、日本政府の側は極めて慎重である。いま、中国の総領事館は日本国内に6か所、内2か所が九州(福岡、長崎)にある。日本国も中国に6か所の日本総領事館を開設しており、相互にバランスを保っている。
沖縄はすでにさまざまな意味で中国による情報操作や浸透工作を受けている。たとえば、琉球独立論である。琉球人は日本人とは異なる人種であり言語も異なると、歴史的事実、言語学的事実に反する主張を展開して、日本から分離独立し、琉球王国を再建すべきだと運動する人々は、沖縄ではごく一握りだ。
だが、中国側はこれらの人々を陰に陽に応援し、中国で琉球独立に関するセミナーを盛大に開いたりしてきた。この種の情報工作の拠点となりがちな総領事館の開設を認めることに日本政府が慎重になるのは当然だが、玉城氏はビザ取得を容易にするために県内に総領事館を設置してくれと、事実上、頼んだことになる。
尖閣の事案を国の仕事だと見做して李氏に抗議の言葉ひとつも言わないのであるなら、総領事館のことも言うべきではないだろう。玉城氏は沖縄県庁に今年4月「地域外交室」を設置した。自治体の立場から外交を推進したいと抱負を述べているが、外交と安全保障は国家が大本を担うものだ。だが、沖縄県は「新・沖縄21世紀ビジョン」という基本計画まで打ち出した。あたかも国とは別個に国際関係を発展させていくとの意気込みだ。このような動きを評論家の石平氏は「独立に向かって発進しているという感じもしないわけではない」と見る(「言論テレビ」7月14日)。
4年前、玉城氏は今回と同じく河野洋平氏を団長とする枠組みで訪中し、胡春華副首相と会って要請した。「一帯一路に関する日本の出入り口として沖縄を活用してほしい」と。胡氏は即座に、「賛同する」と応えた。日本が中国の一帯一路に組み込まれることは国益に反する。それを正式に要請した玉城外交の真意は中国の属領になりたいということか。
私がこのように考えるのは、氏の以下のような振る舞いがあったからだ。7月14日、「言論テレビ」で作家の門田隆将氏が指摘した。
「玉城氏は訪中に当たって中国共産党機関紙『環球時報』の長いインタビューに応じました。その記者と共に北京郊外にある琉球国墓地を訪れたのです」
門田氏の解説が続く。
「この墓地には1879年、明治政府が琉球処分を行ったときに、清国に助けを求めに行った林世功(名城春傍)が眠っています」
中華民族の一員にされる
林世功は沖縄県の設置に反対して、清国に逃れ、軍の派遣などを要請したが、清朝政府は全く動かず、林世功は北京で自ら命を絶った。
「要するに清国に助けを求めた人が葬られていて、そこに現沖縄県知事が墓参りに行った。それを環球時報をはじめ中国メディアが大々的に取り上げた。玉城氏こそ現代の林世功だと伝えるために、この墓地に案内したわけです」(門田氏)
石平氏が補足した。
「彼はね、墓地を訪問したとき、沖縄のお香を持っていって立てました。それはいいです。けれども、中国メディアに、このお香は日本のものではないんです、中国から伝わったものです、と言いました」
普通のケースでは、「これは中国由来のお香です」と言うのに何も問題はない。しかし、この場合、中国人は玉城氏の言葉に特別の意味を持たせると、石平氏は言うのだ。
玉城氏らの訪中前に習近平国家主席は北京の中国国家版本館を訪ね、中国と沖縄の関わりの深さに言及した。その翌日、習氏は文化の統一性について講義した。石平氏の指摘だ。
「習氏は中国文化の統一性について語りました。琉球は中華文明の一部で、中国の一部だということです。習氏は6月初めにこの話をした。そのとき、沖縄県知事の訪中計画はすでに分かっていた。玉城氏の親中振りもよく知っている。だから玉城氏を、中国の大きく深い歴史の枠組みの中で利用するために言ったのです。琉球は中華の影響を受けて、中国と文化的に一体である、と。習氏の意向に倣って、中国の影響を受けた中華世界は沖縄にとどまらず、北海道から南西諸島までの日本全土だ、日本民族も中華の一部だという主張が展開されています。玉城氏はそこにぴったりはまる役割を演じたのです」
中国の情報戦に負ければ、日本は中華民族の一員にされてしまう。玉城氏の愚かさが際立つ訪中だった。