「 習近平主席、沖縄争奪戦開始を指示 」
『週刊新潮』 2023年6月29日号
日本ルネッサンス 第1054回
明星大学教授の熊本博之氏らの研究グループが沖縄県内の軍事基地についての世論調査を行い、その結果が6月5日までに明らかになった。安全保障問題に関して、沖縄の若い世代の意識が大幅に変化しているのが見てとれる。
まず「沖縄に米軍基地が集中しているのは不平等」との問いに「そう思う」「ややそう思う」と答えたのは、65歳以上の世代で82%、18~34歳では54%だった。
「国防政策は政府に決定権があるので基地反対運動は無意味」との問いには65歳以上の24%が「そう思う」「ややそう思う」と答え、反対に「そう思わない(無意味ではない)」「余りそう思わない」が59%を占めた。対照的に18~34歳では各々55%と24%だった。
つまり、高齢者ほど、沖縄に米軍基地が集中しているのは不平等だという思いが強く、基地反対運動には意味があると考えているが、若い世代ほど不平等感は薄まり、基地反対運動は無意味だと考える傾向が強いということだ。
65歳以上と34歳以下の世代の意識差を、琉球新報は6日、「基地、若い世代ほど『諦め』漂う」との見出しで報じた。若い世代はもう何をしても無駄だという諦めから基地を容認し、反対運動に冷ややかな視線を注ぐのか。そうではないと思う。諦めているからだというとらえ方は公正ではないであろう。
若者世代の多くはもはや琉球新報も沖縄タイムスも読まない。SNSなどで情報を知り、世界の実態が琉球新報のような左傾メディアが報ずるものとは全く異なることを知っている世代だ。中国の脅威を強く感じている世代でもあり、日米同盟なしでは尖閣諸島も沖縄も中国に奪われかねないと危機感を持っている人々だ。だからこそ、基地のとらえ方、日本政府の防衛政策に対する考え方が、琉球新報などの固定読者が多い高齢層とは異なるのだ。
石垣島と与那国島で取材
琉球新報の論調が左寄りであることは今更言及するまでもないが、この世論調査が報じられたのと同じ日の紙面で、ここまで左寄りなのかと感じたことをひとつ指摘してみよう。「乗松聡子の眼」というコラムである。「アジア太平洋ジャーナル・ジャパンフォーカス」エディターの乗松氏は、広島で開催された先進7か国首脳会議について、こう書いていた。「戦争利益にしがみつく特権集団による『戦争会議』との見方もできる」、と。
日本国は言論・表現の自由を尊ぶ民主主義国であるから、乗松氏が何を書いても自由だ。しかし氏のコラムはほとんど毎回、今回と同じような乱暴な左翼の主張に溢れている。このようなコラムを継続して掲載する琉球新報の左寄り振りが見えてくるのである。
沖縄世論は実際、どう動いているのか、先週末、石垣島と与那国島で取材した。陸上自衛隊の石垣駐屯地や与那国駐屯地にも足をのばした。両駐屯地は規模は小振りだが、増大する中国の脅威の前で沖縄と日本を守るという意気軒昂な雰囲気に満ちていた。何よりも地元の人達と、さまざまな交流を通して非常によい関係を築いているのが見てとれた。沖縄県民の意識が変化しているとの先述の調査結果を実感した。
どちらの駐屯地前にも反対派の姿はなく、地元の人々に聞くと、自衛隊反対の旗を掲げて駐屯地前に集合する人々の数は随分と少なくなっているとのことだった。とりわけ土日は殆ど姿を見せないそうだ。
それよりもいま、沖縄の人達が懸念しているのが習近平主席の琉球に関する発言だ。中国共産党機関紙「人民日報」は4日、1面トップで、北京市にある歴史資料館「中国国家版本館」を習氏が6月1日と2日の両日、訪問したと報じた。習氏はそこで琉球の歴史について詳しく触れた。
氏はまず、中国が国家として過去の書籍、文献を収集し展示する「国家版本館」は「私が自ら承認したプロジェクト」だと語り、琉球史を記す版本の前で足を止めたそうだ。習氏は自分が福州(福建省の省都)で仕事をしていたとき、福州には「琉球館、琉球墓」があることを知った。加えて「琉球的交往淵源很深、當時還有閩人三十六姓入琉球」、つまり、琉球との往来の歴史は深く、閩人(びんじん)三十六姓の人々が琉球に移り住んだ歴史があると語ったのだ。
当時の中国から多くの人々が琉球に移り住んだと語ったわけだが、それはつまり、琉球は当時の高い文化を中国から学び、今もその末裔が沖縄に沢山いるだろうと示唆したのだ。
習氏の発言は間違いなく中国全土の研究者らを琉球史研究に走らせることになる。沖縄史ではなく琉球史である。いずれの研究も、歴史を辿れば琉球は中国の一部だったという物語を紡ぐことになるのは明らかだ。中国は10年ほど前にも、琉球は中国の支配する属国だったと主張した。沖縄の帰属は未解決だとも主張した。
玉城デニー知事の暴走
今回、人民日報の1面トップで大きく報じられた習氏の発言は、沖縄争奪戦を中国側が仕掛けてきたということを表している。
中国共産党はまず尖閣を中国領だと主張してきた。かつて日本人がそこに住み、漁をし、尖閣神社の跡まであるのに中国領だと言い張ってやまない。事実上の中国海軍である海警の艦船を通年、尖閣の海に侵入させ続けて今日に至る。
沖縄は沖縄である以前に中国属領の琉球だという、中国による集中攻撃がこれから始まる。この戦いは尖閣を巡る戦いよりもはるかに烈しく、長く続くはずだ。
そんなときに沖縄県知事の玉城デニー氏が7月3~6日の日程で、河野洋平氏が会長を務める日本国際貿易促進協会(国貿促)の一員として中国を訪れるのである。中国で玉城氏がどんな発言をするのか、沖縄の人々が非常に心配するのは当然なのだ。
なんといっても玉城氏も河野氏も親中派の中の親中派である。玉城氏は4年前の2019年4月16~19日、今回と同じ枠組みで河野氏らと訪中した。当時副首相の胡春華氏に会った際、玉城氏は「沖縄を一帯一路に関する日本の出入り口として活用してほしい」と要請した。胡氏は「賛同する」と即答した。
沖縄県は今年4月、外交を国だけに任せるのではなく、地域同士で信頼関係を構築する目的で地域外交室を新設した。名称は立派だが、中国におもねる玉城氏の地域外交が日本の国益につながるとは思えない。
加えて玉城氏は、今年の訪中は国貿促の枠内で行うが、来年以降は沖縄県単独で行う可能性もあるという。
玉城氏の暴走は中国の沖縄争奪戦の火蓋が切られたいま、沖縄県民だけの心配事ではなく、日本国として強く警戒すべきことだ。
河野・玉城両氏が中国側とどんな約束を交わしてくるのか、政府はきちんと報告させ、牽制しなければならないだろう。