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2020.10.22 (木)

「 学術会議の反日、異常な二重基準 」

『週刊新潮』 2020年10月22日号
日本ルネッサンス 第922回

日本は普通の真っ当な国家になってはいけないというかのような日本否定の考え方はもう捨て去る時だ。論理矛盾とダブルスタンダードの日本学術会議を見ての感想である。

日本の学者・研究者は「今後絶対に」軍事研究はしない。なぜなら日本は過去に軍国主義に走ったから、という学術会議の掲げる1950(昭和25)年の「決意表明」は、日本を占領していた連合国軍総司令部(GHQ)の考え方を反映している。

亀山直人初代会長は53年に吉田茂首相(当時)へ、GHQが学術会議設立に「異常な関心を示した」と書き送っている。設立時のGHQの異常な関心は、日本学術会議の理念にもろに反映された。日本が二度と米国に刃向かえないように、およそ全ての軍事力を殺ぎ落とす役割を日本学術会議に担わせようとGHQは考えた。それが前述した軍事研究絶対拒否の誓いにつながっている。

学術会議に相当する世界各国の機関はシンクタンクだ。国によって形態は異なるが、強い影響力を持つ米国のシンクタンクは財政的に独立した民間組織として機能している。GHQはしかし、日本学術会議を自国のシンクタンクとは正反対の立場、国家機関に位置づけた。

日本学術会議法には、同会議を守る枠組みが明記されている。内閣総理大臣が所轄し、全経費は国庫によって賄われる一方で、政府から独立した地位が保証されている。

政府から独立した強い立場で、学術会議はこれまでに三度軍事研究に関する声明を出した。最初のそれは前述の50年、「戦争を目的とする科学の研究には絶対従わない決意の表明」だった。67(昭和42)年の第二の声明は、「絶対に」という表現で「戦争を目的とする科学の研究」を拒否した。2017(平成29)年には第三の声明を発表して右の二つの声明を継承した。第三の声明では「今後絶対に」戦争目的の科学研究は行わないとの決意表明に加えて、次の事例を記している。

苦汁を飲まされてきた

「防衛装備庁の『安全保障技術研究推進制度』(2015年度発足)では、将来の装備開発につなげるという明確な目的に沿って公募・審査が行われ」ている。しかし「政府による研究への介入が著しく、問題が多い」。

安保技術促進制度に関して、日本国政府は学術会議に苦汁を飲まされてきた。その当事者でもあった小野寺五典元防衛相が10月9日、「言論テレビ」で語った。

「一度めの防衛大臣の時に、日本の次期戦闘機等、新しい技術の開発は外国の技術に頼るのではなくオールジャパンで進めたい、また、航空機を専門に研究している大学や研究室と共同で行いたいと考え提案しました。ところが大学側は軍事研究は基本的に受け付けないというのです。それどころか日本の大学は防衛大学校卒業生が大学院に入ろうとしても、自衛隊だという理由で入れてくれない。おかしいのは、中国人民解放軍の軍歴を持つ中国人を同じ大学院に受け入れ、技術をどんどん教え、垂れ流しているのです。それなのになぜ、日本を守る防衛大生、或いは防大卒の研究者を拒否するのか。不可解な壁が立ち塞がりました」

そこで小野寺氏らは考えた。学界と防衛省の垣根を低くしようと。その為に安全保障の技術革新を目的とする公募型の研究ファンドを作り、大学や研究機関の専門家たちに応募してほしいと、予算を確保した。

「初めの頃に応募して、いい研究をしていたのが北大でした。ところが学術会議は軍事研究につながるものは許さないと、強硬です。学術会議にはそれなりの権威があります。防衛省の研究費を受けようとした大学の先生方が辞退する例が続きました。納得できないのは学術会議が防衛省の委託研究を禁じながら、米軍の研究費についてはお咎めなしだった点です。大阪大、東京工業大、東北大、京都大などは米軍の研究費を受け入れて成果を出していますが、それらには文句を言わないのです」

米軍の委託研究はよいが防衛省の研究は拒絶せよとは、どういうことか。日本の大学がこんなことでよいのか。それを仕切っているのが日本学術会議だ。だからこそ、小野寺氏はこう語る。

「正直、(名称に)『日本』って付けていいのかなと、そう思います」

中国人民解放軍の委託研究を受けるには至らないが、中国の理系大学や研究機関に協力する日本人教授や研究者もいる。日本学術会議は、日本の国益よりも中国の国益を考えたのかと疑いたくなる意見表明もしている。

先端産業の主導権

そのひとつが国際リニアコライダー(ILC)のプロジェクトだ。

いま世界の素粒子物理学研究の中枢は、スイスとフランスの国境に27キロにわたってまたがる地下深くのトンネル、大型ハドロン衝突型加速器(LHC)にあると言われる。これは宇宙の成り立ちの解明につながる純粋科学の研究だ。しかし、同研究は超電導技術や、素粒子検出に必要なあらゆる先端技術が凝縮されたもので、この分野を制覇できれば、ほぼ完全に先端産業の主導権を握れると言われている。中国はいまこの一大研究に意欲を燃やしている。この研究で成果をおさめられれば、「中国の夢」を叶え、「世界の諸民族の中にそびえ立つ」ことができる。

一党独裁体制で世界制覇を目指す中国共産党は、このビッグ・サイエンスのプロジェクトに惜しみなく資金を投入できる唯一の存在であろう。対して西側陣営は一国では対抗できない。連携が必要で、日本と欧米が共同プロジェクトとして考えているのが先述のILCだ。

科学分野での巨大プロジェクトは国と国との関係を左右する。遅れをとれば先んじた国の後塵を拝すのみならず、安全保障上も経済上も従属を強いられかねない。いま米国が国益をかけて宇宙開発に乗り出しているのも、宇宙空間を中国に制覇されてはならないと考えるからだ。

中国はすでに従来の2倍以上の規模の次世代加速器建設を考えており、日本が誘致しようとするILC建設は我が国が科学において一流国に踏みとどまれるか否かの岐路である。だがここに日本学術会議が立ち塞がっている。30年という長期計画と巨額の資金投下は科学者の代表機関として支持できないというのである。彼らは真に科学者の代表機関なのか。

北海道大学名誉教授の奈良林直氏が語る。

「日本学術会議は、人文社会分野までを含む学術団体の推薦者から構成され、最近は自分達で人選しています。海外の巨大研究機関との連携が弱く、国際プロジェクトを主導する組織力もなく、研究成果の産業界への波及といった活動も活発ではありません。評論家的な立場の所見です」

こんな日本学術会議に、日本の未来を左右しかねない大プロジェクトを止める資格はないだろう。

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