「 ドゥテルテ比大統領が示す中国への怒り 国際社会で共に対処する発想こそ重要だ 」
『週刊ダイヤモンド』 2019年4月20日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1276
フィリピンのドゥテルテ大統領が4月4日、自国が領有する南シナ海の島周辺に数百隻の中国船が押し寄せているとして、中国に強い不快感を表した。
「パグアサ島に手を出すな。手を引かない場合、自爆任務を担う部隊を送り込むことも辞さない」と、当然のことだが、領土に関しては一歩も引かない構えを示した。
パグアサ島は南シナ海のスプラトリー諸島の一部で、フィリピンが領有する9つの島の内、最大の島だ。住民はおよそ100人である。
今年2月4日、国防大臣のロレンザーナ氏は、同島の港湾施設の改良工事が進行中だと発表した。空港の滑走路などが老朽化しており、早急に修理が必要で、資材搬入に港の整備が必要だという。同計画は前年末には完成予定だったが、中国の不当介入で進行は遅れ、現在も未完成だ。
中国はどのように介入してきたのか、ロレンザーナ氏が昨年11月に語っている。
「フィリピン駐在中国大使がパグアサ島の港の整備計画中止を要求(urged)してきました」
フィリピン政府が自国領の島を整備するのに、中国が口を挟むべき理由などない。だが、中国は以前から露骨に介入し続けている。2017年8月、フィリピン漁民が同島の砂州に休憩用の小屋を建てたとき、中国側は小艦隊を派遣して島を取り囲んだ。100隻近い漁船も押し寄せた。フィリピン政府は米沿岸警備隊から譲り受けたハミルトン級の艦船を派遣した。
シンクタンク「アジア海洋透明化構想(AMTI)」によると、パグアサ島に押し寄せた中国漁船はすべて中国海洋軍への所属を示す旗を立てていた。さらに注目点は、漁船の大半がGPS(全地球測位システム、中国のGPSは「北斗」)を搭載していなかったことだ。約100隻の漁船の内、「北斗」搭載は一隻だけだった。残りの小型漁船は何を期待されているのか。
シンクタンク「国家基本問題研究所」研究員で東海大学教授の山田吉彦氏は語る。
「中国政府は彼らを、パグアサ島に置き去りにするということでしょう。漁民たちにはその島の住人となって、中国政府の次の指令を待つことが求められていると思います」
漁民の中には軍人も当然交じっている。彼らはいざという時には立ち上がって中国軍と一緒に島を奪う。彼らの常套手段だ。
中国は南シナ海を派手に埋めたてて国際社会の反発を招いたが、派手な立ち回りの陰で、パグアサ島のように、国際社会が余り注目しない、目立たない島々でも確実に侵略の手を広げている。まさにその点で憂慮すべき事態が起きていると、AMTIが警告する。
南シナ海の北部にあるパラセル諸島のボンベイ礁に中国が新たなプラットホームを建てた。灯台しかなかった島に、27メートル×12メートルのプラットホームが海面から一定の高さの所に造られ、124平方メートルの太陽光パネルが設置された。隣に航空機用のレーダーアンテナを保護する屋根も見てとれる。建造物の下部構造は、衛星情報では判断できない。
AMTIの専門家はこれを次のように分析した。ボンベイ礁はパラセル諸島とスプラトリー諸島間の航行路の要衝に当たるため、ここにレーダーを設置して行き交う船の情報すべてを得ることが目的と思われる。比較的小型の設備で十分に機能するため、インテリジェンスの視点では非常に重要な役割を果たし得る。目立たない形で、中国は情報戦における対米優位を確立できる。国際社会の非難の的になる派手な大規模工事から隠密行動へと、中国は戦術転換をしたとの分析だ。
ドゥテルテ大統領の怒りを共有して、共に対処する発想こそ重要だ。