「 「赤札大王」でハクビシン撃退に成功もまだ残るペットの飼い主のお行儀問題 」
『週刊ダイヤモンド』 2018年12月15日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1260
庭に出没して食べ頃に熟した柿の実を食い散らしてしまうハクビシンの撃退に、私はこの夏、見事に成功した。ハクビシンの苦手な赤い色の、長さ30センチメートル、幅15センチメートル程の札を吊したのだ。札の下の方の袋には唐辛子、ニンニクなど多種類の強烈な刺激臭を発する素材が詰まっている。
箱から出した途端、人間の私たちも顔をそむけたくなる程の強い刺激臭だ。私はこの札を「赤札大王」と勝手に名づけて柿の木に3枚も吊した。効果てきめん、以来ハクビシンは我が家から退散した。人間が眠っている間に鋭い爪で木の肌をひっかくことも実を食い散らすことも含めて、彼らの来襲の形跡はまったく見られなくなった。ミッション・コンプリーティッドである。
しかし、小鳥も来なくなった。我が家常連の幾十羽の雀の群れは無論、ひよ鳥も目白の群れも四十雀も、カラスさえ来なくなった。余程臭いがきつく、繊細な鳥たちにはこたえるのであろう。いつでも大歓迎な鳥たちなのに、ハクビシン退治に集中すれば、彼らもいなくなる。私の本意ではないのにそうなってしまう。どうすればよいのか。そうだ、時間差を活用すればよいのだと、思いついた。
ハクビシンは夜行性である。小鳥は暗くなる前に巣に戻る。ならば、昼間は赤札大王を物置にしまい、庭を鳥たちの居心地のよい環境にする。夕方に赤札大王を取り出して柿の木に吊せばよい。とても簡単なことだ。私はその通りに実行した。大成功だった。鳥たちは戻り、水浴びをし、歌ってくれるようになった。庭に賑わいが戻ってきたのは、この上ない幸せである。
しかしその直後に新たな事件が発生した。ハクビシンは今度は2階のベランダを襲ったのだ。そこには大き目の鉢にレモン、ミカン、デコポン、キンカンの木を植えている。それぞれ2メートル程の高さの果樹は、例年精一杯花を咲かせ、実をつける。
或る日大きくなったミカンの実がかじられていた。木の下にはスズランが植わっている。花は終わっているが、葉を青々と広げ、太陽光を浴び、養分をつくり来年のために球根を太らせようと頑張っている。そのスズランが踏みしだかれていた。
ハクビシンの仕業だと断定せざるを得なかった。私は新たに赤札大王をここにも吊り下げ、大成功をおさめた。
この間に、私は少し悩んでいた問題も赤札大王の活用で解決できるのではないかと考え始めた。
実は、拙宅はペットの散歩コースに当たるらしい。散歩する犬と飼い主を、当初はほほえましく見ていたが、いつの間にか余り好意を抱けなくなった。理由はペットが玄関前で用を足し、飼い主が片付けないことである。犬のフンの掃除が我が家の日常業務になって久しい時間が過ぎた頃、「ペットのトイレの始末は飼い主にお願いします」という控え目な札を立てるようになった。
よく見ると、ご近所のあちこちに同じような札が立っていた。皆困っているのである。だから札を立てる。けれど、効果がないのである。お互いに暮らし易い社会をつくる常識が少し欠けている飼い主がいるのである。
そこで、私はまたまた考えた。赤札大王の臭いは犬だって好きではないはずだ。人間よりはるかに優れた嗅覚を持つ犬は、赤札大王の近くには金輪際寄ってこないに違いない。試しにいつもフンが置きざりにされる玄関の前、その横の椿や寒椿、千両の木々の近くに下げてみた。
なるべく見苦しくないように、木の枝の後ろの方などを選んだ。その効果かどうかわからないが、犬のオシッコの跡がなくフンの片付けをしなくてよくなったのは確かである。当面の問題は解決されたが、ペットの飼い主の皆さんがお行儀よくして下さるにはどうしたらよいのだろうか。