「 想像を絶する韓国文政権の北への服従 」
『週刊新潮』 2018年3月8日号
日本ルネッサンス 第793回
史上最も政治的に利用された平昌五輪が一区切りついて、パラリンピックへと舞台は移る。選手たちの活躍の舞台裏で、醜悪な左翼テロリスト勢力の鋭い爪が着実に韓国を捕らえたと思われる。
北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は平昌五輪閉会式にテロ活動の総元締め、金英哲朝鮮労働党副委員長を送り込んだ。この件について、朝鮮問題の専門家で国家基本問題研究所の西岡力氏を2月23日、「言論テレビ」に招いて、眼前の危機を読み解いた。
英哲氏は2010年に韓国の軍艦「天安」を魚雷で沈め、軍人46人を殺害した張本人だ。正恩氏がそんな人物を送り込んだのは、本当に自分の命が狙われているという恐怖心ゆえだと、西岡氏は説明する。
「北朝鮮で『あの世からの使者』と呼ばれ恐れられていた男が金元弘(キムウォンホン)前国家保衛相でした。正恩氏の叔父の張成沢(チャンソンテク)も人民武力部長の玄永哲(ヒョンヨンチョル)も彼が処刑した。それが去年初めに国家保衛相を解任されて軍に異動、秋には家族共々、農場に送られ平の農場員にされました。理由は、これまた正恩の恐怖心でしょう。北朝鮮政府のかなりの高位にいた人物が脱北して韓国のテレビで繰り返し述べたのです・歴代の国家保衛部長は粛清が終わると自身も粛清されてきた。金元弘が馬鹿でなければ、自分が粛清される前に行動するだろう。金正恩を暗殺するとしたら金元弘だ」
正恩氏はその報道を聞いたかもしれない。また、余りに権力を集中させすぎた人間が自分に牙を剥くかもしれない、であれば、粛清だと考えたかもしれない。最側近も信じられない程、正恩氏が脅えているということだ。
正恩氏が最も恐れるのがアメリカだ。昨年11月、国防総省は北朝鮮有事に備えて「戦争ゲーム」の想定訓練をした。前提は同盟国の韓国や日本の大都市に被害を出さない、中国軍の北朝鮮侵入を許さない、である。
小型の核爆弾しかない
北朝鮮は38度線に沿って少なくとも200基のミサイルや通常の攻撃用兵器を韓国や日本に向けて配備し、地上にも地下にも拠点を設置済みだ。これらの攻撃能力を一気に封印して反撃能力を奪うには、手立てはひとつ、小型の核爆弾しかないという結論が導き出された。
折しも国防総省は2月2日にアメリカの「核戦略見直し」を発表した。「爆発力を抑えた小型核兵器の開発」を打ち出し、「敵に本当に核兵器を使用すると思わせ抑止力を強化する」「潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、水上艦発射巡航ミサイルなどに搭載する小型核の開発」などを強調している。
元防衛庁情報本部長の太田文雄氏は、米軍がB-2爆撃機にB61という低出力の新型核爆弾を搭載して飛行したと、敢えて公表したことを重く見る。右の発表は16年10月6日だった。その直前に北朝鮮は大陸間弾道ミサイル(ICBM)用のエンジンテストを行った。
B-2爆撃機は完全なステルス性で、見つからずに北朝鮮領空まで接近できる。精密誘導ミサイルから発射されるB61は、正恩氏の居場所と目される地下基地に精確に発射され、バンカーバスターのように地中深く到達して地下基地を破壊する。
こうすれば、広い範囲に被害が及ぶことも大気の放射能汚染も防げる。アメリカは今年、B-2爆撃機をグアムに配備したが、北朝鮮には3時間で到達する距離だ。
「アメリカの戦争ゲーム、B-2爆撃機とB61核爆弾、金元弘の粛清。全てひとつにつながります。正恩が相当な恐怖を感じている。危機の出口として文在寅大統領の利用を考えたのが平昌五輪参加であり、妹の金与正のみならず金英哲の派遣でしょう」と西岡氏。
金英哲氏は「天安」攻撃のとき、朝鮮人民軍偵察総局長だった。朝鮮人民軍には元々武力謀略戦に従事する偵察局があった。1983年のラングーン事件は彼らの所業だ。この軍のテロ組織と、大韓航空機爆破犯の金賢姫らが所属していた党のテロ組織が合併して、09年にできたのが偵察総局である。英哲氏は初代総局長となり、10年に「天安」を撃沈させた。
「今回、文政権は天安事件の首謀者は金英哲だと特定されていないと弁明しましたが、嘘です。10年11月の韓国国会で国防大臣が主犯は金英哲と断じています」と、西岡氏。
英哲氏は成功裡に悪事を重ね出世した。12年には中将に、さらに大将に昇進し、16年に統一戦線部長に上り詰めた。
「統一戦線部は合法、非合法の全活動をします。韓国で地下政党を作らせるなど、お手のものでしょう」
北朝鮮への支援金
「統一日報」論説主幹の洪熒氏は憤る。
「文在寅は開会式のレセプションで申栄福を尊敬していると全世界に発信しました。申は金日成が韓国に作った地下革命組織、統一革命党の秘密党員でした。68年8月に摘発されて70人くらいが逮捕された。党首の金鍾泰(キムジョンテ)ら3人は死刑に処されたのですが、このとき、金日成が鍾泰奪還を目指して工作船を送り込み銃撃戦になりました。結局、彼は死刑を執行されましたが、処刑のとき、『金日成万歳』と言って死んだのです。金日成は彼を讃えて北朝鮮の海州(ヘジュ)師範大学の名前を金鍾泰師範大学に変えたほどです」
金鍾泰らと共に逮捕された申栄福は無期懲役で服役、それを金大中氏が恩赦で釈放した。申は書がうまく、「通」と大書した作品が青瓦台に飾られている。南北統一で道が通るという意味だ。
「その書の前で文大統領は今回、金日成の孫の与正氏と記念撮影したのです。そうしたことを具体的に調整したのは、文大統領を支える秘書室長(官房長官)の任鍾晳(イムジョンソク)でしょう」と西岡氏。
西岡氏は、韓国のテレビ各局が北朝鮮の映像を利用するとき、任氏が著作権料を払わせ、その受け皿としての財団を作り、自身が北朝鮮の代理人になって送金をしてきたと指摘する。洪氏も指摘した。
「昨年12月、文氏は中国を訪問しましたが、その直前の12月9日から12日まで、任鍾晳がUAEとレバノンを訪れました。大統領でもない人物の単独外交は異例です。北朝鮮への支援金が何らかの形で受け渡されたのではないかと、私は見ています」
正恩氏は英哲氏を送り込むことで文氏の忠誠心を試したのである。文氏は平昌で英哲氏らと1時間も話し込んだ。文氏は北朝鮮の核問題にもミサイル問題にも天安問題にも触れていない。北朝鮮による工作が深く浸透している証左である。これらは全て日本への脅威となって撥ね返ってくる。朝鮮半島の動向は、極東情勢はまさに100年に一度の危機だと示している。その危機を前提にした憲法改正を考えるときである。