「 事実を認めず思考の自由なき韓国で始まった日本統治時代の研究 」
『週刊ダイヤモンド』 2016年8月27日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1146
国立静岡大学教授の楊海英氏から日本文化人類学会発行の専門誌、「文化人類学」(巻81-1、2016)を渡された。雑誌には韓国東亜大学教授、崔吉城氏のインタビューが掲載されていた。
崔氏は1940年生まれ、国立ソウル大学を卒業し、日本の筑波大学で文化人類学博士号を取得、中部大学、広島大学でも教鞭を執った。氏の研究は韓国のシャーマニズムから始まり、キリスト教、日韓の文化、慰安婦の研究と幅広い。日本留学の結果、氏は「親日派」とされ、長年にわたる差別に直面して今日に至る。
氏は反日の原因は植民地(併合)にあると考え、88年、日本統治時代の研究に乗り出す。当時はまだ「タブー」だった日本統治の研究を、反日感情のとても強い時代に開始し、90年には「植民地調査報告書」を世に問い、総督府による『朝鮮の風水』の韓国語訳も刊行した。
「それを契機に(日本統治の研究の)タブー視が一挙に全部なくなった。それでもう、自由になった」と氏は語る。
研究が自由になったとはいえ、内容は事実に即するというよりイデオロギー色の強い反日である。
「歴史学者たちが抗日運動とか独立運動の研究をして、日本側が行った暴力に関する研究は山ほど出ている」「日本を悪く言う生き方は韓国では今、一番楽だと言える」と語る崔氏は、自身はそのような「世間(の波)には乗らない」「いつか客観的に見る時代が来るでしょうという気持ち」「いつも自分の歩みが(時代より)先すぎて(これまで)苦労はした」とも述べている。
崔氏は慰安婦についても指摘する。
「朝鮮戦争では、韓国で米軍キャンプにも売春婦がつくけど、韓国軍にはつかない。貧乏な中国軍隊には売春婦がつかない。日本軍は金を持っている軍隊だった」
右の主張の根拠の1つとして、崔氏は英領ビルマ(現在のミャンマー)・シットウェーの慰安所の事例を示す。日本軍が集中していた同地域の慰安所では、「一晩で日本円で大金といわれるほどの収入があった」と。
右の件は当時日本軍慰安所の管理人だった朝鮮人が残した2年分の日記によっても明らかだという。氏は日記を入手し、裏付け調査を行って、「現在、出版に向けて準備中」だ。氏へのインタビューが2015年12月15日になされたことから、出版はそう遠いことではないだろう。
ちなみに慰安婦として働いて2万6145円を貯金した、それを払い戻してほしいと、戦後日本政府を訴えた文玉珠氏も同じ慰安所にいた。彼女は現在の額で1億3000万円相当ともいわれる貯金の他に、金融機関を介し実家に送金していたことが知られている。
崔氏は、中国共産党軍についても興味深いことを書いている。慰安婦は貧しい中国共産党軍には近づかなかったが、彼らは性的暴力を働かなかったというのだ。彼らは農民の食糧支援などで支えられるゲリラ戦を戦っており、女性への性暴力は現実論として到底許されなかったからだという。
人間の実際の行動を研究して史実に迫るのが文化人類学である。実際に起きたことを正確に把握することを最も大事にする崔氏らの研究が、慰安婦は日本軍による強制連行だった、性奴隷だったという主張を否定している。現在、韓国の人々の多くはそうしたことを認めようとしない。昨年12月の慰安婦に関する日韓合意に強く反対する韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)の運動家も同様だ。崔氏はそのような韓国には、思考の自由がないのだと、喝破する。
時間の経過とともに多くの韓国人も事実を認識せざるを得ないときが必ず来る。そのためにも私は日本人に崔氏の『韓国の米軍慰安婦はなぜ生まれたのか』(ハート出版)を薦めたい。