「 権益守るためなら領土も奪う! 不遜な姿勢を打ち出す中国の脅威 」
『週刊ダイヤモンド』 2014年12月13日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1063
国際社会がとんでもない世の中になりそうだ。中国がこれまでの世界のルールを自分たちの考えで変えてしまうと、事実上、宣言したのである。
世界の制度や規制は中国がつくるという不遜な姿勢が打ち出されたのは11月28、29の両日、北京で開催された中央外事工作会議でのことだった。習近平国家主席が常務委員会(日本の内閣に相当)全員と党や軍の幹部を前に中国の対外政策について演説し、「国際社会の制度改革を進め、わが国の発言力を強める」「中国は近隣外交を平和、誠実、相互利益、包容に基づいて行うが、自国の正当な権利、国益で譲ることはない」「核心的利益は強い覚悟で守っていく」などと語った。
近隣外交では平和や誠実をモットーにするという美しい言葉をちりばめてはいるが、真意は国際社会の制度を中国の都合に合わせて変更し、中国の権益を守り抜くために他国の領土や領海を中国なりの理屈で奪うことも辞さないと表明したとみられている。
このような見方は、演説と同じ日に英国駐在の中国大使館幹部が英国議会の下院に通達した香港統治についての驚くべきメッセージによって、さらに深まった。同外交官は、英国と中国が合意したはずの、香港の高度な自治を返還から50年間は守るという共同声明は香港が返還された時点で無効になっていたと通達したのだ。
周知のように英国と中国は香港が中国に返還された場合、返還の日から50年間は香港の高度な自治を保障するという内容の共同宣言に調印した。これが1984年のことであり、97年に香港は中国に返還された。社会主義一党独裁の国に自由と民主主義を尊ぶ香港が組み込まれた際、中国は「一国二制度」という制度を考え出した。
ところが、返還から17年しかたっていないにもかかわらず、中国政府は香港の行政長官の選挙に制限を加えた。自由選挙を求める学生たちが立ち上がったが、彼らの運動も抑え込まれつつある。
英中共同宣言に違反する現状に反発し、英国議員らが香港の実情視察に訪れたとき、中国は入国を拒否するという強硬手段に出た。そして前述のように11月28日、香港返還時点ですでに84年の共同宣言は無効になったと英国下院に宣言したわけだ。世界の制度や法律を変えて、中国の主張を押し通すという習主席の言葉の実践が始まっているのである。
だが、中国の邪な主張が世界にスンナリ通用することはない。11月29日の台湾の統一地方選挙がそのことを有弁に物語っている。台湾総人口2300万人のうち、約7割に上る人々が住んでいるのが台北、新北、桃園、台中、台南、高雄の6市である。これまでは中国寄りの国民党が4つの市で市長ポストを握っていた。今回、新北市を除く全てを野党第一党の民進党および同党に支援された候補が奪った。
民進党がどれほど国民党を圧倒したかは得票数から見えてくる。台北市では、85万対60万、まさに大差で勝利したのだ。
民進党の大勝利の背景に、半年前、台湾の国会を占拠し、「ひまわり運動」を起こした学生たちの意識があった。学生たちは馬英九政権が強引に進めようとした中国とのサービス貿易協定に反対して立ち上がった。中国が経済力で台湾をのみ込んでしまうかのような取り決めに反対した学生たちが、台湾を台湾人の国として守っていく意思を示したのが今回の統一地方選挙だった。
経済、軍事両面から迫る中国は実に手ごわい相手である。それぞれの国が固い決意をもって対処しなければならない。とりわけ、中国が一番の敵と見なす日本は覚悟を迫られている。中国の脅威にどう備えるか、それこそが12月の衆議院選挙の真の争点だということを重ねて強調したい。