「 深い教養と残虐さを持つ中国人 対中外交で押さえるべき基本 」
『週刊ダイヤモンド』 2014年11月15日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1059
東京工業大学教授の劉岸偉氏の『周作人伝 ある知日派文人の精神史』(ミネルヴァ書房)は、過去も現在も、中国に素晴らしい教養人が存在することを教えてくれる。作品を読めば、魯迅の実弟で、兄の後を追って日本に留学した周作人も劉氏も、並の日本人よりもなお深く日本を理解する「真の親日派」であることが分かる。
このような素晴らしい教養人を育んだ中国には、同時に幾千万の国民を死に追いやった毛沢東のような非道の人物が少なくない。習近平体制下で進行中の数々の蛮行、徹底した言論と情報の統制、表現の自由の規制、不条理な反日などと、前述の深い教養がいかにして同じ漢族の中に存在するのか、私には理解しにくかった。
しかし、『本当に残酷な中国史 大著「資治通鑑(しじつがん)」を読み解く』(麻生川静男、角川SSC新書)で多くの疑問が氷解した。資治通鑑は紀元前500年から紀元後1000年の約1500年の中国の歴史を、北宋の学者であり政治家だった司馬光がまとめたものだ。1万ページに上るこの大著を簡便な新書にまとめたのが麻生川氏だ。
氏は、資治通鑑は史実に忠実であることを旨とするため、他の歴史書が省いている中国の悪事も詳細に書き込まれていると説明する。その意味で、善においても悪においても日本人よりはるかにスケールが大きい中国人の本質を知るのに最適の書だというのだ。
氏は中国の長い歴史の中で実践されてきた善と悪のうち、主として巨悪の実例を列挙する。それを読めば、中国人の兆単位の不正蓄財をはじめ人間を人間と見なさない弾圧、国際法を勝手に解釈する異次元の価値観と横暴なども、なるほどそうだったのかと納得できる。
究極的には身内さえも信用しない彼らの一つの側面も分かってくる。敵対者を骨の髄まで憎み、「冎(か)」や「臠食(れんしょく)」という、解説するのもはばかられる日本人の想像を超える残虐性も同様だ。
本書に紹介されている事例は、朝鮮半島の慰安婦だった人たちが日本軍の「蛮行」として主張した具体例と全て重なるのである。つまり、そうした蛮行は中国と朝鮮半島の伝統であるということに気付くのだ。
「針の突き出た板上に人間を死ぬまで転がした」「池を蛇でいっぱいにし、人間を突き落として殺した」「赤ん坊を空中に投げ、落下するところを剣で刺した」など、資治通鑑には繰り返し登場するが、この書を英語圏の人々が読めば、旧日本軍に着せられた汚名の濡れ衣はすぐに晴れるだろう。
問題は、中国の指導者層がいまも資治通鑑に書かれている謀略、暴虐を至上の価値観と考えているらしいことだ。
毛沢東はこの大部の書を17回も読んだそうだ。毛は、1958年に始めた大躍進政策で約2000万人の農民を餓死させた。66年から10年にわたる文化大革命では少なくとも3000万人の知識人や富裕層を死に追いやった。史上空前の国民大虐殺の罪を犯した毛が、謀略とその具体的手法を学んだのが、資治通鑑だったと思われる。
そしていま、毛の手法に倣っているのが習近平国家主席である。汚職撲滅を大義として掲げ、敵対する可能性のある胡錦濤前国家主席系の人物を次々と粛清しているのがその一例だ。
比類なく残酷で謀略にたけた毛の手法に学ぶ習体制の中国に、日本は向き合わなければならないのである。橋本左内、岩崎弥太郎、坂本龍馬ら、かつての日本の指導者は資治通鑑を読み、中国人の本質を理解した上で対処しようとした。現在の日本は、政治家、官僚、言論人も含めて大丈夫なのかと懸念する。
巨悪と残虐の中国人。深い教養の中国人。どちらも真実なのだ。そこをしっかり見ることが日本の対中外交の基本でなくてはならない。