「 日本人よ、もっと歴史闘争に参加せよ 」
『週刊新潮』 2014年5月29日号
日本ルネッサンス 第608号
米国カリフォルニア州グレンデール市に建てられた慰安婦像の撤去を求めて裁判を起こした米国在住の目良浩一氏が、5月16日、言論テレビに出演し、米国で展開されている対日歴史非難の主力が韓国人から中国人に移り、日系人までもが加わって日本を貶めている実情を語った。それだけではない。日系・中国・韓国の反日包囲網に米国の世論まで加わっている状況を、目良氏は約1時間にわたって詳述した。
昨年7月に慰安婦像を設置したのは、加州韓米人フォーラム(KAFC)という比較的歴史の浅い組織である。米国の司法、議会、財界への働きかけにおいて経験不足のKAFCに、在米中国系団体「世界抗日戦争史実維護連合会」(以下、抗日連合会)が15日、支援の手を差し延べた。
「抗日連合会」は明白な反日組織である。設立は約20年前で、2007年にカリフォルニア州選出の下院議員、マイク・ホンダ氏らを支援して、慰安婦決議を可決させた。米国における反日での中韓連携は、中韓両政府の反日闘争と同じパターンだ。政府レベルでも、いまや中国が韓国の事例を利用して、反日歴史戦の主導権を握っているのが現実だ。
「抗日連合会は、私たちの訴えに関連して連邦地裁に参考意見を提出しました。河野談話や村山談話などから引用して、日本政府は慰安婦問題について何度も謝罪している、世界中が慰安婦問題では日本が悪かったという点で合意しているのであるから、訴訟は意味がないというものです。彼らの主張は私たちの主張とは全く関係がない。論点をすり替えています」と、目良氏。
目良氏らアメリカ在住の日本人が作るGAHT(歴史の真実を求める世界連合会)は、今年2月20日、グレンデール市を相手取って像撤去を求める裁判を起こしたが、その主張は、慰安婦像設置で日本を歴史的に非難することは日米外交に関わる問題であるということ。そして、外交権は連邦政府に属しており、地方自治体の市が一方の側に立って日本を非難するのは、連邦政府の外交権を侵し、違憲である、というものだ。
信じ難い程野卑な記事
GAHTの訴えに対して、約1ヵ月半後の4月11日、今度はグレンデール市が司法当局に反論を提出した。
「反論の柱は2つです。外交は連邦政府が独占的に行うもので市に介入の余地がないとの主張は根拠を欠くというのが一点、もう一点は表現の自由です。市の代理人を引き受けた大手弁護士事務所のシドリーオースティンは、無報酬で働くことを申し出ています」と、目良氏が指摘した。
シドリーオースティンのウェブサイトでは、所属弁護士は約1800名、東京を含む世界各地19ヵ所に拠点があり、「あらゆる」要請に応えていると謳われている。ちなみに丸の内の東京事務所の代表は、公明党にも属したことのある元衆議院議員、西川知雄氏となっている。
シドリーオースティン側が主張する「表現の自由」は、目良氏らの、連邦政府の外交権を市が侵しているという主張とは無関係だ。彼らは巧みに論点をすり替えているが、抗日連合会が連邦地裁に提出した意見書も同様である。彼らは河野談話や村山談話を引用して、悪いのは日本政府だとの主張を展開するが、連邦政府の外交権を市が侵すことの是非には全くつながらない。
目良氏らの主張が的を射ていればいる程、相手方は別の手法で攻めてくる。たとえば米国世論への働きかけだ。その意味で経済誌『フォーブス』の果たした役割は非常に大きい。
グレンデール市側がシドリーオースティンの支援を得て反論を提出した2日後に、『フォーブス』の日曜版に、信じ難い程野卑な記事が掲載された。目良氏ら原告の代理人、「メイヤー・ブラウン法律事務所」への中傷である。「全米トップ級の弁護士事務所が扱う最低の訴訟だ。このような反吐が出るような、軽蔑される訴訟は必ず敗訴とならなければならない」などと下品なののしりが羅列された記事は、4月13日を皮切りに複数回掲載された。
一連の記事を書いたジャーナリストのフィングルトン氏は、日本在住歴27年で、夫人は日本人との情報もある。
名の通った経済誌がなぜ、このように粗野な記事を載せるのか。『フォーブス』の品位を貶めるだけだと私は感ずるが、明らかにメイヤー・ブラウン側は動揺した。同記事が出た後の17日、異変が生じた。
「シカゴ本社の指示で直ちに訴訟から手を引くというのです。フィングルトンの記事がきっかけで、かなりの大企業、とりわけシリコンバレーの大企業が契約解除の動きを見せているとのことでした」
結局、メイヤー・ブラウンは29日に、正式に契約を解除した。
捏造しているのは彼ら
目良氏らはいま、米国でどんな立場にあるのか。在米韓国人団体に在米中国人団体が加勢し、彼らの背後に韓中両政府の支援があるのは明らかだ。加えて、5月6日、韓国人弁護士協会と日系弁護士協会が、共同声明で目良氏らの訴訟は取り下げるべきだと発表した。なぜ、日系弁護士協会なのか。あくまでも一般論だと断って、目良氏が説明した。
「日本人と日系人は必ずしも同じではありません。日系人は戦前に移民した人々の末裔で、いま4世、5世の時代です。真珠湾攻撃で日系人は内陸に収容され、財産も失った。その苦い思いから、日本にあまり愛着を抱いていない人もいます」
日系人の中には、勿論、本当に日本にあたたかい思いを抱く人々も多い。だが、中国人団体の支援を受けて慰安婦決議案を4回も提出したマイク・ホンダ氏のような日系人もいることは確かなのだ。
それだけではない。米国世論も日本には必ずしも好意的ではない。米国人の9割は歴史問題には無関心だという。残り1割の、日本に関心を抱く人々の多くが韓国側の主張を信じていると、目良氏は推測する。日本からの情報発信が殆ど皆無であることの結果である。
目良氏らの裁判を支援するために約500人が原告になっているが、大半が日本にいる日本人であり、在米の日本人は数人にとどまる。目良氏らの孤軍奮闘振りを示す数字は取りも直さず、日本の孤軍奮闘を示すものだ。
だが、私たちは敗れるわけにはいかない。いま日本人がすべきことは、目良氏らの裁判に精神的かつ物質的な支援を実行することだ。この闘いは一審から最高裁まで10年は続くと覚悟し、持久戦に耐える情報発信を、遅すぎたとはいえ、いますぐ始めなければならない。まずは河野談話作成のプロセスを検証して、包み隠さず世界に情報開示することである。なんといっても、事実を捏造しているのは彼らであり、私たちではないのであるから。