「 徹底反論せよ、嘘と捏造の習近平発言 」
『週刊新潮』 2014年4月10日号
日本ルネッサンス 第602回
中国の習近平国家主席の対日歴史非難には、徹底的に日本を叩き潰したいというような粘着質の黒い情念が感じられる。
昨年12月26日、安倍晋三首相が靖国神社を参拝すると、その日の内に王毅外交部長(外相)が木寺昌人駐中国大使を呼びつけて言い放った。
「(安倍首相が)両国間の緊張と対立を激化させ続けるのなら、中国側は必ずやとことん相手をする」
笑止千万。日中関係は首相参拝以前から緊張と対立でしかなかった。安倍首相が対話の扉を開いても、中国も韓国も全く応じなかった。「とことん相手をする」との言い方は日本への責任転嫁であり、中国がそこまで言うのであれば、日本もまた、とことん相手をしてやるのがよい。
中国は、安倍政権誕生以来、首脳会談に応じようとせず、事ある毎に対日歴史非難を展開してきた。今年1月には、伊藤博文公を暗殺したテロリスト、安重根の記念館を、韓国の朴槿恵大統領の要請を受けてハルビン駅に建てた。2月には、12月13日を南京事件の国家哀悼日に定めた。3月18日には、戦中、日本企業に酷使されたとする元労働者の提訴が受理され、その後中国各地で同様の動きが続いている。彼らは中国人を酷使した日本企業の残酷さを捏造し、微に入り細に入り世界に広めて日本を貶めようと目論んでいる。
習近平政権は日清戦争から120年の今年を日本の軍国主義と戦う1年と位置づけ、3月28日のドイツでの記者会見で見られたように、習氏自身が「歴史戦争」の最前線に立つ。
国家主席就任から丸1年、習氏が記者会見で質問に答えるのは極めて珍しいが、同会見に先立って習主席はざっと以下のように主張した。
①日本の軍国主義によって3,500万人の中国人死傷者が出た、②南京事件で日本軍は30万人以上を殺害した、③中華民族もドイツ民族も偉大な民族で人類文明の進歩に大きく貢献している、④中国は覇権を唱えないが列強に侵略された悲劇は絶対に繰り返さない。
未来世代にとっての悲劇
氏自身が生々しい歴史戦争の最前線に立って激しい日本非難を行ったことは、日本にとって容易ならざる事態だ。対日歴史戦争に、中国が国家として全力を注いで攻勢をかけてくるということだ。いま、この局面で中国の意図を読み違えてはならない。歴史を巡る戦いは、国家にとって避け得ない宿命的な戦いと心得ることだ。十分な準備を整えて、全力で反撃しなければ、日本は精神的に潰される。日本の未来世代にとっては悲劇となる。
習主席の言葉は、どこから読んでも嘘と恥知らずな捏造に満ちている。嘘も百遍繰り返せば真実になると習主席以下、中国政府は考え、呆れるような嘘を繰り返す。彼らは嘘をつくことを少しも恥じない人々であるから、日本は彼らの嘘に、その都度、きちんと反論しなければならない。事実さえ正しく知っていれば、中国への反論は難しくない。
まず、日本軍による犠牲者が3,500万人という嘘だ。
日本の敗戦後、中国ではまだ力を持っていた国民党が根拠も示さずに日中戦争で犠牲となった中国人は320万人と主張した。だが暫くするといきなり579万人になった。260万人も増えたが、これまた根拠は一切、示されなかった。この出鱈目振りは、国共内戦で中国共産党が勝利し、中華人民共和国が建国された途端に桁違いのスケールに押し上げられた。中国共産党は、犠牲者数は2,168万だと主張し始めた。
ちなみに中国共産党は長年、上の2,000万人強を公式の犠牲者数として掲げ続けた。だが、これさえも江沢民時代に大幅に変えられた。
周知のように江沢民主席は1994年、愛国主義教育の名の下に反日教育を開始した。中国の歴史教育は日本に関してだけでなく、アメリカ、チベット、モンゴル、ウイグル、インドなど、およそすべての国々との関わりに関して多くの捏造がある。中でも憎悪に満ちた捏造が目立つのが日本に対してである。反日教育の先頭に立ったのが江氏だった。
戦後50年の95年5月、江氏は戦勝国の記念式典に参加し、いきなり日本軍による中国人犠牲者は3,500万人と発表したのだ。無論、この数字にも裏づけは何もなかった。
日本軍による犠牲者の数はなぜこのように増え続けるのか、根拠は何か。中国の歴史教科書は国定教科書で1種類しかないが、その教科書に記された数字も出鱈目である。たとえば、60年までは1,000万人、85年にこれが2,100万人に改められ、95年にはさらに3,500万人に改訂された。
事実に民族感情を反映
私は、中国社会科学院近代史研究所所長の歩平氏にこうした点を質した。2005年、北京でのことである。すると、氏は次のような信じ難い答えを返したのだ。
戦争犠牲者の数字については「歴史の事実は孤立して存在するのではなく、民族感情に直接関係している」と言うのだ。「南京大虐殺」の「30万人」についてもこう語った。
「(30万人には)当然根拠はあるが、これは単に一人一人の犠牲者を足した結果としての数字ではない。被害者感情を考慮する必要がある」
歩平氏は中国を代表する日本研究者の一人で、日本でも高名な学者である。中国社会科学院は権威ある中国政府のシンクタンクだ。一流の研究機関に所属する一流の学者が、歴史に関する事実は民族感情を反映させて形成される、即ち、捏造は当然だと言ったわけだ。中国では公正な学術研究は成立し得ないということだ。学界も含めて、中国は異常なる世界に埋没していると言ってよい。
中国の捏造は数字にとどまらない。中国共産党に都合の悪いことは、事実関係自体が捻じ曲げられる。たとえば、朝鮮戦争は北朝鮮の攻撃で始まり、中国が延べ人数で290万もの兵士を投入した。私たちにとってこれは常識だが、中国の教科書では朝鮮戦争は「アメリカ帝国主義の侵略から始まった」と教えている。
この点も歩平氏に尋ねた。すると、中国はいまだ朝鮮戦争勃発の経過についての真実を研究中だと答えた。私は思わず笑ってしまった。
習主席は中国は人類文明の進歩に大きく貢献し、覇権を唱えないと主張したが、なんと恥知らずな主張だろうか。チベット、ウイグル、モンゴルの三民族への凄まじい弾圧のどこが文明の進歩か。民主化運動の指導者を次々と投獄することが中国の文明なのか。南シナ海を中国領とし、尖閣諸島を狙うのは覇権追求ではないのか。
中国がとことん日本と戦う覚悟なら、日本もまたとことんつき合おうではないか。事実に基づいて徹底的に反撃する力を、日本人一人一人が身につけよう。