「 外貨を稼ぐ開城工業団地の閉鎖こそ対北朝鮮の有効策 」
『週刊ダイヤモンド』 2013年2月23日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 974
北朝鮮が2月12日、核実験を行った。2006年10月と09年5月に続く3度目の実験である。北朝鮮当局は今回の実験を「爆発力は大きいが、小型化、軽量化し、高い水準で安全に完璧に(核実験を)実施した」と発表した。事実ならアジア・太平洋諸国は新たな深刻な危機に直面する。
とりわけ国際社会が注目しているのは北朝鮮の核爆弾がプルトニウム型か濃縮ウラン型かという点だ。前2回の実験はプルトニウム型だった。今回の核爆弾が濃縮ウラン型であれば、国際社会は北朝鮮による核大量生産という悪夢に直面する。
濃縮ウラン型核の製造は原子炉を使う必要がなく、電力さえあれば秘密裏の製造が可能である。しかも北朝鮮には世界有数のウラン鉱山があるために、北朝鮮の核大量生産と、結果としてのイランやシリア、テロリスト勢力への核の密輸が現実味を帯びてくる。
このような展開に国際社会、とりわけ韓国の危機感は強い。「統一日報」論説委員の洪熒(ホンヒョン)氏は、北朝鮮が核兵器の実戦配備に向かっているとして韓国には基本的に4つの対応策があるという。(1)北朝鮮の核能力を物理的に排除する、(2)米国の核の傘で守ってもらう、(3)韓国も核を保有する、(4)朝鮮半島を韓国が統一する、である。洪氏が語った。
「(1)は戦争突入を意味し、現状ではどの国も望んでいません。(2)は、北朝鮮が米国をも狙える長距離ミサイルを開発した可能性のある現在、米国が自国への北朝鮮の核攻撃という危険を冒してまで韓国を守ってくれるか、疑問です。したがって(3)もしくは(4)の解決策を韓国は考えるべきです」
核武装を現実の可能性として論ずる人々が韓国にいて、しかも、そうした人々が圧倒的に少数派かといえば必ずしもそうではない。韓国で最も信頼されているといわれる言論人、趙甲済(チョガプジェ)氏らをはじめ、少なからぬ人々が真剣に核武装の必要性を提起していることを、日本は知っておかなければならない。いま、この地域が直面している危機はそれほど深刻なのだ。
韓国自由連合代表、「統一日報」記者の金成昱(キムソンウク)氏は別の角度から北朝鮮への対処を語る。北朝鮮は核実験に先立つ2月6日、開城(ケソン)工業団地を閉鎖すると恫喝した。そのときの北朝鮮の主張は、開城工業団地は「南朝鮮の中小・零細企業と同胞への愛から始まった」もので、北朝鮮の韓国への思いやりによって成り立っている。にもかかわらず、1月23日に採択された国際連合安全保障理事会の対北朝鮮制裁決議に関して「効果的に履行する」などと述べた韓国は許せないというものだ。
金氏は北朝鮮側の主張を一蹴し、工業団地が果たしている最大の機能は北朝鮮の政権維持に必要な資金(外貨)を韓国が提供し続けていることだと指摘する。
「12年実績で北朝鮮は南北貿易で1億7700万ドルの収益を得ましたが、そのほとんどが開城工業団地経由です。他方、北朝鮮は同年、中国との貿易で7億6000万ドルの赤字を出しています。中国は北朝鮮に食糧や石油は渡しますが、現金は絶対に渡しません。だから、開城工業団地の経済活動で手にする資金こそ、金正恩の命綱なのです。したがって、北朝鮮の望み通りに、工業団地を閉鎖すればよいのです。それが韓国の国益です」
北朝鮮経済全体の7割を占める対中経済交流で大幅な赤字に陥っている北朝鮮をかろうじて支えているのが開城工業団地であり、北朝鮮の行ってきた多くの不正輸出だ。麻薬、偽ブランド品、偽札などは序の口で、ミサイル技術、核関連技術の密輸に加えていまや核兵器の密輸の可能性が生まれようとしている。
このような事態を眼前にして日本が行うべきことは、国際社会と協調した制裁とともに、自衛隊による国防力の強化である。