「 私がインターネットテレビで週1回のニュース配信を始める理由 」
『週刊ダイヤモンド』 2012年10月27日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 958
この10月26日、金曜日から週1回のインターネットテレビを始める。現在も原稿はすべて手書きの私がなぜそんなことに挑戦するのか。
私はかつて、日本テレビで「きょうの出来事」という夜のニュース番組のキャスターを務めていた。キャスターがアンカーパーソンと呼ばれていた草分けの時代にテレビ報道の第一線に立つという巡り合わせだった。番組では16年間、一度も休むことなく夜11時からニュースを伝え続けた。
たくさんの人にお世話になって同番組を卒業するとき、記者会見で私はその理由を、「これからは論陣を張っていきたい」と語っていた。
実はこんなことを言っていたのを思い出したのは、番組をやめて10年近くたったときだ。シンクタンク国家基本問題研究所を創設するときに、なぜシンクタンクをつくる気になったのか、じっくり振り返ってみようと思い立ち、テレビ媒体を離れた10年前の自分の気持ちを、当時のフレッシュなままに知りたくて、初めて会見のVTRを見たのだ。
私は基本的に原稿を読むニュースキャスターの役割を重要としながらも、なお前に進みたかったのだ。取材し、考え、自ら記事や視点をまとめていく物書きの世界に存分に身を置きたいと願ったのだ。その決心通り、私は10年、浅学非才ではあるが徹底して取材し、書き続けた。そして10年が過ぎたとき、日本の状況に強い危機感を抱き始めた。小泉純一郎氏の政権のときだった。高い支持率を誇り抜群の政局観で「わが世の春」の風情の小泉首相だったが、実は日本の国としての力はむしばまれ続けていた。小泉首相の改革は経済に集中し、戦後の日本が最も必要としていた国家観、歴史観の立て直しにはつながっていなかった。
例えば小泉首相は中国の反対に抗して靖国参拝を継続したが、その作法は昇殿もせず、ポケットの小銭をチャランと投げ入れサッと引き揚げるというものだった。なぜ、首相が靖国参拝するのか、しなければならないのかという国家観は感じ取れなかった。これではせっかくの政治力も空転する。歴史、文化文明を重視し、日本の国益を考えて政策提言を行う戦略研究所を考え始めたゆえんである。
準備に1年を費やし、前述の国基研をつくった。いま、創立から満5年が過ぎようとしている。国基研は恐らく日本で唯一、一般の皆さんに支えられているシンクタンクだ。役所や業界の資金援助に頼らないことで国益だけを考え、遠慮なく提言できる。私たちの国益重視の提言はかなりの影響力を及ぼしてきたと自負するが、一つ、当初からの目標が達成されていない。それはもっと、若い世代に働きかけたいという点だ。日本の未来を切り開き、担っていく人々にこそ、日本の素晴らしさと可能性、世界の現実を実感してもらえれば、どんなに状況は好転することか。
大局観と歴史認識を身に付けた若い世代がもっと育ってほしい。そのためにもっと彼らにリーチしたい。それがインターネットテレビでのニュース配信を決意した理由である。
言論テレビという会社を立ち上げ、番組名を「君の一歩が朝(あした)を変える!」とした。これは漆紫穂子さんが校長を務める品川女子学院の生徒さんたちの考えを基に決定した。中高女生徒たちが、「自分の一歩」が日本の未来を変えると感じた。その思いを大切にしたい。そのような未来世代の日本人が前向きな気持ちになれるような情報や視点をどんどん提供したい。
第1回の放送は10月26日金曜日、夜9時からである。初回のゲストは自民党総裁、安倍晋三氏である。私のウェブサイトを訪れ、名前などを登録してくだされば、どなたでも大歓迎である。共に未来を切り開く試みに、挑戦してほしい。