「 中国問題を乗り越えるための米韓豪印、東南アジア諸国との連携 」
『週刊ダイヤモンド』 2012年10月6日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 955
9月25日、40隻の台湾漁船団が8隻の巡視船に守られながら尖閣諸島の日本の領海を侵犯した。日本政府の手抜かりが招いた結果であり、ここから先の日本政府の対策が問われている。
漁船団に尖閣行きの資金、500万台湾元(約1,350万円)を提供したのは旺旺グループの蔡衍明会長だが、彼は江沢民元中華人民共和国国家主席の系譜につながる人物だ。つまり中国資本が漁船団を派遣したことになる。一方、台湾総統の馬英九氏はこれを止めることが出来なかった。これからも出来ないだろう。
日本が警戒すべきは、中国系資本で台湾の漁船団が動き、台湾政府にそれを止める力がなく、尖閣をめぐって中台共闘の形がつくられることだ。
この最悪のケースを防ぐために日本政府は台湾との漁業交渉を進めていなければならなかった。だが、野田佳彦首相の下、民主党はほとんど何の準備も出来ずに今日に至る。台湾側の要請は尖閣周辺の豊饒の海を日台双方の漁民が一定のルールの下で漁業資源を管理し、漁をする仕組みの構築である。
台湾の漁民に入会(いりあい)権を認めるこの方法こそ、台湾がほっする解決法であり、この点を担保して台湾を日本側に引きつけることが、日本の尖閣戦略の基本の一つだ。
馬総統は今回、「中国と尖閣の件については連携する気はない」と語ったが、中国は逆に台湾漁船の動きを「正当な行為である」と評価した。尖閣諸島と台湾の双方を手に入れるいわば一石二鳥の上策として、台湾と共闘を進めたいのが中国だ。対照的に馬総統の「台中連携はしない」との発言は中国の思惑への警戒心であり、日本への、早く手を打てとのメッセージだ。
中国は竹島問題で軋轢を起こした韓国とも対日攻勢で連携をもくろむ。しかし、韓国側には日本との摩擦をこれ以上大きくしないための理性が働き始めている。例えば竹島周辺で9月7日から実施した訓練だ。毎年行われてきた同訓練は「竹島防衛のため」とされ、韓国海兵隊が重要な軸となってきたが、今年、海兵隊の参加が見送られた。
実は、韓国側には、日本へのこれ以上の挑戦的な行動は抑制すべきだとして、訓練自体を中止すべきとの議論も一部にあった。結局、訓練は行われたが、主力の海兵隊は不参加となった。
中国の対日包囲網の構築は彼らの思惑通りにはいかないということだ。それでも中国は力に任せて自説を押し通そうとする。日中経済交流にも種々の「障壁」を設けた。しかし、こうした年来の国際法や事実を無視した中国の手法はすでに国際社会に知れ渡っており、それ故に今回、台湾も韓国も中国との全面協力に走らなかった。
一方、日本側には、中国市場を失うことへの恐れが根強い。しかし、日中の摩擦で生ずる経済的被害は、日本のみならず中国とて同じである。むしろ、経済基盤の脆弱さを考えれば、中国が被る経済的痛手、中国共産党が被る政治的痛手はもっと大きい。
だからこそ日本政府は、ここで踏ん張らなければならない。決して弱気になったり内向きになってはならない。国際社会の現実を大局に立って分析し、自信を失わないことが大事であり、大枠としての戦略を見失わないことだ。
インドの有力紙、「タイムズ・オブ・インディア」は、9月24日、日中関係の緊迫はインドにとっての大好機との社説を掲げた。インド政府は日本政府と経済協力の幅を拡大すべきであり、日本に対して中国の代替地を提供すべく、ただちにあらゆる手を打てと提言した。
この社説に見られるように、21世紀のアジア・太平洋圏を見据えた戦略は、日米韓豪印および東南アジア諸国の連携である。その方向に突き進んでいくことによって、日本は必ず尖閣諸島問題も中国問題も乗り越えることが出来る。