「 価値観を生かした高齢国のあり方 日本モデルとして普及させよう 」
『週刊ダイヤモンド』 2012年2月11日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 923
厚生労働省が1月30日に発表した「将来人口推計」では、日本の総人口は50年後の2060年に8,674万人になる。半世紀で人口が4,100万人以上減少する計算だが、これを「産経新聞」は関東の1都6県(人口約4,200万人)が消滅すると表現した。
この寂しい風景は、しかし、視点を変えればまったく変わってくる。高齢国家とは、経験を積み一生をまじめに生きてきた人々が多数存在する経験知と良識の固まりなのだ。であれば、彼らの力を活用し、彼らに社会や国の運営に大貢献してもらうのがよい。
私たちは昨年の東日本大震災をきっかけに、これまでの人生を振り返り始めた。日本がどれだけ互いを思いやる社会をつくっていたのか、日本人がどれだけ誠実な人びとであったのかを、あらためて認識した。日本を日本としてきた大事な価値観を再認識したのだ。
この価値観は、戦後日本の主流だった経済成長至上の価値観とは異なる。経済成長で確かにたくさんの「幸福」がもたらされたが、繁栄がかげり、停滞の時代を迎えたとき、私たちは揺らぎ始めた。約20年間、世界が成長するなかで、日本だけがGDP500兆円の規模で、横ばいを続けた。変わらず豊かだが、発展のない国で多くの人が自信をなくし漂い始めた。まだまだ、世界第二の経済大国だったのに、なぜ、私たちは不安の中に沈み込んだのか。
そこに起きたのが東日本大震災であり、価値の再認識だった。この価値の再認識こそが日本の未来を切り開く根源的な力になると、私は確信している。日本の価値を生かした国のあり方を日本型(日本モデル)としてアジアにも世界にも普及させることが、日本の真の再生であり、課題である。
たとえば、21世紀の世界の問題は少子高齢化である。EU諸国はそれを体験中であり、一人っ子政策の中国は日本よりもなお深刻なかたちで同じ問題に直面する。その問題を日本が解決し、それを日本型とするのだ。そのためにまず、高齢者は生涯現役という仕組みをつくり、第二に、若い世代にもっとお金が回る社会をつくることだ。
日本には約1,450兆円の個人資産がある。1億円以上の金融資産を持つ人々が約150万人、この層の保有する金融資産は約400兆円で、残り1,000兆円強が中級階層の人びとの手にある。日本の富は、広く分散されておりその約八割を高齢世代が保有していることが特徴である。
1,000兆円規模の潤沢な資金の1割でも2割でも社会に回していければ、日本経済は活性化し、デフレ脱出も可能だ。1つの事例だが、高齢層の要望の筆頭に健康と安心がある。その要望を積極政策で満たすことによっても、経済は活性化する。
日本の医療は皆保険によって全体的に高い水準にあるが、世界で見ると決してトップレベルではない。硬直した制度ゆえに国民は先進医療の恩恵も、ゆったりした良質な医療も受けられない。皆保険の平等性を担保しながら、国民の金融資産の八割を保有する高齢者の必要とするサービスを、それなりの代価を前提にして提供する仕組みは、つくれるのである。医療制度を大胆に改善し、多様な医療を提供できれば、その仕組みは日本の高齢者のニーズをとらえるだけでなく、日本をアジア・太平洋の先進医療センターに押し上げる。こうして日本全体の医療収入も、雇用も、税収も増える。
高齢者が元気で生産し、消費し、生涯現役のように暮らせる社会を目指すとともに、高齢者の富を重い負担なしに若い世代に受け渡す税制が必要だ。それが東日本大震災で再認識させられた家族の絆の強化につながれば、なおよい。家族が共に助け合える社会づくりを税制で後押しすることは、日本の価値観に合致しているはずだ。そのことはまた、若い世代が働き、暮らしやすい社会の構築につながると私は思う。