「 “ひとり負け”を脱したCOP17 枠組み外でも温暖化防止に注力したい 」
『週刊ダイヤモンド』 2011年12月24日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 917
南アフリカ共和国のダーバンで開催された第17回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP17)は、日本にとって事実上“ひとり負け”だった京都議定書から脱する第一歩となった。
ダーバン会議は来年末で期限が切れる京都議定書に代わる新たなCO2削減の枠組みづくりを目指した。世界最大の温暖化ガス排出国の中国と米国が削減義務を負わされる枠組みに反対の姿勢を貫くなか、細野豪志環境大臣は中米印などの主要排出国すべてが参加しなければ、日本は新しい枠組みがつくられたとしても入らず削減義務も負わないと演説した。日本国がこのように自国の立場を主張することは珍しい。細野氏の主張は合理的で公正だった。
ダーバン合意は、(1)2020年に主要排出国すべてを対象にした新しい枠組みを発効する、(2)13年以降は京都議定書を延長する、(3)途上国の温暖化対策を支援する「緑の基金」の運用を開始するなどが柱となった。
緑の基金は昨年のCOP16でつくられ、先進国が20年まで毎年、1,000億ドル(約8兆円)を拠出する。
合意の(1)と(2)を合わせると、京都議定書が終了する13年以降新たな枠組みが発効する20年までの8年間は、世界は空白期間に入るということだ。いま、世界の温暖化ガスの約4%を排出する日本は13年以降、削減義務を負わなくなるために、削減義務を負うのは17%を排出するEUのみとなる。これで地球環境は守られるのか、なぜ、両国合わせて45%もの温暖化ガスを排出する中国と米国は責任を引き受けないのかと、問うゆえんだ。
COPの歴史を振り返ると、稚拙な外交で不利な条件をのまされてきた日本は学ぶことが多い。京都議定書は先進国と発展途上国を明確に二分し、米国、EU、カナダ、日本の前者にのみCO2削減義務を負わせた。ところが、米国は議会が納得しないという理由で、またカナダはとても実行出来ないという理由で、あっさりと脱落を宣言した。
EUと日本だけが削減義務を負ったが、両者の排出ガスは世界全体量の4分の1弱だった。しかもEUは27ヵ国の共同体で、旧東欧諸国も含まれた。つまり、遅れた国々を抱えるEUにとって省エネによってCO2排出を削減することは容易だった。
最も困難な立場に置かれたのが高水準の省エネを達成ずみの日本だった。一定の技術水準を達成後、さらに高めるのにはより多くのコストがかかる。
むろん、日本は高度な技術を磨き上げて自らの産業基盤とすべきだ。だが、すでにCO2排出量を大幅に減らしていたうえに京都議定書の削減義務を忠実に守ろうとすれば、他国からCO2排出枠を購入せざるを得ず、日本は政府レベル、民間レベルで数百、数千億円の支払いを、主として中国に行ってきた。これは世界で最も省エネを進めてきた日本に対する不合理かつ懲罰的な支払いだったといえる。
こうした状況下で、民主党の鳩山由紀夫首相(当時)は09年9月、主要排出国の参加を前提条件としながらも、日本は1990年比で25%を削減すると世界も日本も驚いた公約を国連で発表した。
鳩山氏は日本が率先して削減目標を掲げれば、中国も米国も追随すると甘い幻想を抱いたのだが、両国は削減義務を負う姿勢はみじんも見せなかった。
今回、細野氏が堅持した全主要国の参加なしには日本も参加しないという方針は、年来の日本のひとり相撲に終止符を打つものであり、その点を高く評価したい。
他方、強調すべきは、国際的削減の枠組みの外にあっても、日本は常に省エネおよび温暖化防止技術の開発に力を注がなければならないという点だ。その努力を重ね、世界のモデル国となる誠実さが日本への信頼を深め、未来産業において真のリーダー国になる道である。