福田首相“無策政治”の背景にある日本本来の力への認識不足
『週刊ダイヤモンド』 2008年2月2日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 725
福田康夫政権の下で株価下落が続いている。下落が日本だけの問題でないのは確かだが、それでも福田政権の無策は見るに堪えない。なぜ、これほど無策なのか。問題への理解の欠落以前に、首相は日本の持てる力に気づいていないと思えてならない。
日本への愛も信頼も欠くかのような福田流政治への憤りが静められ、慰められた本がある。『白洲次郎 占領を背負った男』の著者、北康利氏の『匠の国日本』(PHP新書)である。
焼土となった戦後日本にまだ「日本人」が残っていた、それこそが日本蘇りへの「一筋の光明」だった、と著者は強調する。残っていた日本人とは、「匠の伝統を受け継いだ、手先が器用で我慢強く、向上心旺盛な、世界有数の勤勉な国民」だ。
同書は、単に匠やその技を紹介するのではない。匠の歴史を繙き、職人と職人技を育んだ日本社会のありようを広く深く書き込んで、それは日本文明論にもなっている。
昔の人の職人への視線の熱さは、現代人が芸術やスポーツに秀でた英雄を見つめるそれと変わらないと北氏は結論づける。そういえば、山本周五郎の『おたふく物語』の主人公・おしづが憧れ、結ばれたのも彫金職人の貞二郎だった。
興味深いのはしかし、中世の日本の職人には女性も多かったという指摘で、職人のほとんどが男性だった西洋とは対照的だ。彼女たちは土器や酒造りなど多分野で活躍した。それが男性中心になるのは近世中期以降だという。
酒造りは男の仕事で「女杜氏の酒なんか飲めるか」などと言ってはいけないのだ。なんといっても、昔は女杜氏の酒を皆が楽しんでいたのだから。そのせいか、日本の女性はお酒を嗜む点においても男性に引けを取らない。
イエズス会の宣教師ルイス・フロイスの『日本覚書』には、「ヨーロッパでは女性がワインを飲むことは非礼なこととされるが、日本の女性は頻繁に飲酒し、祭礼でしばしば酩酊するまで飲む」とある(北氏)。
北氏は、匠の技を守ってきた“お上”についても高く評価する。飛鳥、奈良時代の天皇家や豪族、平安時代の藤原家、室町幕府下の北山および東山文化、盛んに行なわれた神社仏閣建築などで匠の技は磨かれてきた。時が下り現代でも、財政事情が厳しいなか、政府は職人のやる気を、技の顕彰によってよく引き出してきたという。
匠の技の顕彰は、明治初期の廃仏毀釈の苦い経験への反省から生まれた。北氏は、興福寺の五重塔が神仏分離令で破壊される寸前だった事例について書いている。奈良県令(知事)の四条隆平の命令で、五重塔の頂上に綱をかけ、万力で引き倒そうとしたのだそうだ。しかし、1,000年は持つ匠の優れた技の結晶である塔は容易に倒れなかった。すると今度は、五重塔を焼き払うことになった。周囲に柴が積まれ、火をかけようとしたとき、周辺住民の反対で中止となった。だが人びとは、五重塔を惜しむのでなく、類焼を心配して反対したという。
時勢というもの、その時々の世論の怖さを感じさせる話だ。
こうしたきわどい局面で、伝統と匠の技を守るべく立ち上がったのが、福澤諭吉門下の元文部少輔(事務次官)の九鬼隆一だったと紹介されている。九鬼は、日本古来の美術品の保護の重要性を訴え続けてきた人物で、宮内省臨時全国宝物取調局の設置に尽力し、初代委員長となる。彼の下に集まったのが、『茶の本』を著した岡倉天心らである。彼らの活躍が国宝保存法、文化財保護法となって現在に至る。
官僚の堕落がいわれるが、日本の伝統や文化文明を守るために頑張っている官僚も存在するのだ。日本は歴史と伝統の国である。日本再生の力を、まさに、そこから汲み上げていきたいものだ。
■なぜかマスコミが指摘しない、毒入り餃子事件の背景■…
今回の事件で、なぜか日本のマスコミが取り上げようとしないのか不思議なのは、犯行のあった 10月1日という 日 付 の 特 殊 性 だ 。
この日は中国では “国慶 (more…)
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