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2006.08.31 (木)

「 小泉参拝、日中外交の基礎とせよ 」

『週刊新潮』 '06年8月31日号
日本ルネッサンス 第228回

小泉純一郎首相の8月15日靖国参拝は過半の国民の意思を反映したもので、明らかに成功だった。8・15参拝後に行われた各紙世論調査の数字はまさにそう告げている。

昭和天皇のお言葉のメモとされる元宮内庁長官、富田朝彦氏の手帳を、“絶妙なタイミング”で報じた『日本経済新聞』の世論調査が、8月21日朝刊に掲載された。結果は支持が48%にのぼり、反対の36%を大きく引き離した。他紙の調査も同様で、『読売新聞』では支持の声は53%、不支持が39%、『毎日新聞』は各々50%と46%だった。

新聞各紙もテレビ報道も、断片的な富田メモを以て、昭和天皇の御意思は“A級戦犯”合祀の靖国神社には参拝しないことだという大前提で報じるなか、過半の国民が首相の参拝を支持したわけだ。

それでもメディアはひたすら靖国参拝を否定的に報じるが、首相の参拝は中国に、日本の国家意思をこの上なく明確に示す結果となった。日中外交の未来は首相のこの基本姿勢を土台として築かれるべきだ。

中国は安倍官房長官が靖国神社を参拝していたことが報じられたときも、首相が8月15日に参拝を断行したときも、“想定の範囲内”の批判におさめている。その上で小泉首相の参拝後には「日本各界の有識者が政治的障害を取り除き、中日関係を正常な発展軌道に戻す努力をすると信じる」との外務省声明を発表した。昨年10月の首相参拝時に出した「侮るな」「持ち上げた石で自分の足を打つ結果になる」(『産経新聞』8月16日)との憎悪むき出しの声明に較べれば、中国の対日政策に変化が生じつつあるのは明らかだ。

中国にとって対日政策、就中、歴史問題は、常に熾烈な国内権力闘争の政治的材料であり続けてきた。現在も進行中のその権力闘争を敢えて単純化して言えば、江沢民路線と胡錦濤路線の闘いである。

国民財産収奪の構造

江沢民氏が鄧小平の支持によって権力の座についたのは周知のとおりだ。鄧小平は同時に胡錦濤氏を、ポスト江沢民の指導者として、指名した。鄧小平によって引き上げられ、支えられて誕生しただけに、江前主席も胡氏を無視するわけにはいかない。

だが、権力者は権力に脅える。93年に国家主席に就任した江前主席は、94年秋までに鄧小平が認知症の症状を示し始めると、鄧小平の影響力の排除に努めた。鄧小平が目をかけた人々をさまざまな容疑で摘発して、一部を死刑に、或いは長期の刑を科して黙らせ、権力基盤を固めた。

10年後、国家主席の地位を胡錦濤氏に譲る際、江氏は後継者の手を縛れるだけ縛った。党の最高指導部を構成する政治局常務委員、9名中5名を子飼いの部下で占めた。胡主席は現在に至るもいわゆる“少数与党”的な立場に立たされているわけだ。また、2002年の全国人民代表大会では、中央委員会政治局全員の決議で、「今後も重要な問題は江沢民同志に諮って解決する。彼の決定を基準とする」ことを確認した。

中国問題に詳しい東京新聞編集局編集委員の清水美和氏は言う。

「その決定では請教(チンジャオ)という語彙、まさに生徒が先生に教えを請うという表現が使われました。胡は江の教えを請うて、教えに従って物事を処理するというわけです。これを党内文書で全国に伝達させたのです」

だが、胡錦濤路線はすでに、明らかに江沢民路線から外れている。江前主席は「三つの代表」の考えを打ち出した。中国共産党は①先進的な生産力、②先進的な文化、③広範な人民の利益を代表するとの考えだ。

最も重要なのが、中国共産党は、先進的な生産力の代表としての私営企業家をはじめて党員として迎え入れるという①の点だ。だが、これは酷い結果を生み出した。清水氏が語る。

「中国共産党員は全人口の5%にすぎませんが、私営企業家の約3分の1が共産党員です。彼らの殆どは、国営企業の経営者だった共産党員で、MBOを通して、一夜にして国営企業を我が物にし、私営企業家に成り上がった人々です」

MBOはmanagement buy-out、経営者が自社株を買い取る仕組である。国営企業の資産は中国国民の共有財産だ。にもかかわらず、「三つの代表」政策推進のなかで、共産党幹部らは労せずして自分の担当する国営企業の株を買い、一夜にして民営企業のオーナーとなった。共産主義の旗の下で、限りない国民財産の横領が繰り広げられているのだ。

こうして成り上がった人々が現在の中国のエスタブリッシュメントだ。その代表が江沢民一族であり、氏の長男の江綿恒氏である。

中国へ断固たる姿勢を

胡主席は、江沢民路線に対抗して、2003年には科学的発展に基づいた国家の構築、2004年には調和社会の構築を打ち出した。世界中の資源を暴食中の中国を、省資源型の国家に作りかえ、富める者は尚富み、権力者は尚権力を強める社会で打ち捨てられてきた農民や貧困層に、富を分配していこうという政策だ。

路線の違いが、自身と自身の一族の命運に直結するだけに、双方の争いは利権と全命運をかけた血みどろの様相を呈する。そうした中で、対日宥和の姿勢は政治的な隙となり、そこにつけ込まれかねない。二つの勢力の中で、対日政策が常に“政敵の足を引っ張り、政界から葬り去る”材料とされてきたのは、85年の中曽根康弘首相(当時)の参拝を問題視した時から明らかだった。

折しも、「江沢民文選」全三巻が発表され、「(日本に対しては)歴史問題を始終強調し、永遠に話していかなくてはならない」と書かれていることが明らかにされた。

李肇星外相がほめたたえる序文を寄せ、唐家迺㍾走ア委員も同書を絶賛した。中国の対日政策の司令塔と見做すべき人々は皆、江沢民の対日強硬路線の枠の中にいる。胡国家主席とて現在は同じである。

だが、強調したいのは、江前主席との比較で胡現主席が、民主的で好ましく親日的にもなり得るなどと甘く考えてはならないということだ。そもそも胡主席が鄧小平に見込まれたのは、チベット動乱のときに、党中央の指示を待つことなく自ら鎧兜を被って戦車に乗り込み、大弾圧の先頭に立ったからだ。10万人の僧やインテリが無残に殺されたチベット動乱で、弾圧の功をたてたことが彼の最高権力の地位への出発点だった。彼は到底、私たちが考える民主的な指導者ではあり得ないだろう。

だからこそ、日本側に必要なのは、日本の問題が中国の国内権力闘争の具として利用されることを断固として拒否することだ。小泉首相の参拝は、そうした中国の対日政策をきっぱりと拒絶したことを意味する。この小泉路線の上に立ち、日中の価値を守ったうえで未来の日中外交を築いていくべきであり、それを国民は支持しているのである。

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