「 タイ資本に買収された老舗オギハラ 日本の金型産業は本当に危うい 」

『週刊ダイヤモンド』   2009年10月24日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 810


日本の金型産業が危ういと、メディアで報じられ始めて久しい。それでも、日本の金型産業を担っていた人びとは、秘かな自信を失いはしなかった。

彼らの自信の根拠は、金型はたいそう複雑な産業で、簡単にまねが出来ないところから生まれていた。

たとえば一台のクルマのモーターを作るには、ざっと見て、1,000枚ほどの非常に薄い板を、一枚一枚絶縁しながら重ね合わせなければならない。一枚一枚の金属板の素材は超硬と呼ばれる最高の硬度を誇る。ローラーで引っ張って金属板を超薄に仕立てていくのだが、その際、横に働く圧力の強さを勘案しなければならない。

そこはもはや芸術といってもよい次元の仕事で、扱う素材がどの素材メーカーのどの工場で作られたかさえ考慮しながら、「金型設計の技能屋」が仕立てていくのだそうだ。
だからこそ、中国や東南アジアに金型産業が移転したといっても、日本では当然のこととして調達できていた品質の金型が調達できない、同レベルの金型なら日本よりも高い、納期も守らない、維持管理が難しいなどの問題が発生する。だから、日本の金型産業が競争力を失うことはないと、考えたのである。

そんな人々のなかに横田悦二郎氏がいた。

氏は優れた金型企業の一つである黒田精工で、金型技術の開発を手がけた専門家である。かつて自信を持っていた横田氏が、今、「私は大本営になろうとしているのだろうか」と、言って告白した。

「数年前はメディアで、危ういと言われても大丈夫だと思っていました。そのように発言して元気を出そうと旗を振ってきました。けれど今、本当に危うくなっているのです。日本の金型産業は大丈夫、競争力はあると言い続けてきましたが、真実でなくなっているのかもしれないと、不安です」

数年前まで、日本の金型企業が直面していた危機の一つが、顧客、つまり、金型の発注元が、コスト削減のために中国などに工場を造り、日本の金型企業が作った金型の図面を勝手に持ち出して、海外で製造するというものだった。

それでも十分に深刻過ぎる危機だが、今起きている危機は、日本の金型企業が中国などに技術を売るケースや、企業が丸々、外国資本に買い取られてしまうことだという。
金型企業の九割以上が従業員19人以下の中小零細企業だ。受注の激減によって、背に腹は代えられず、中国などに技術を売ってしまうケースが少なくない。

また、金型企業トップ4社のうちの一つであるオギハラの場合、従来から取引のある金融機関から必要とされる追加融資が受けられず、資金繰りに行き詰まった。日本のより大きな銀行からの借り入れの道も、種々の事情で切り開けなかった。そこで外国資本に頼ることになり、今春、サミットが八四%の株を持ち、オギハラはタイ資本の企業となった。

オギハラは乗用車のボディの金型を作れる数少ない大手企業の一つだ。日本のメーカーも、乗用車のボディの金型を、タイから輸入しなければならない日がくるかもしれない。

横田氏が強調した。

「企業が丸々、外国資本に買われてしまうのです。こんなケースはこれからも増加すると警戒しなければなりません。けれど、救う道はあります。政府が数十億円、数百億円の資金を一時、回してくれればよいだけです。わずかなおカネです。

金型産業は全産業の基本を支えています。金型産業を支えることは日本の産業を支えることです」

民主党は明らかに大きな政府をつくりつつある。ならば、こうした分野にこそ、どこよりも先に手厚い保護政策を講じてほしい。

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プロフィール

櫻井よしこ Yoshiko Sakurai

職歴

1971~74
クリスチャンサイエンスモニター紙
東京支局勤務
1975~77
アジア新聞財団
DEPTHNEWS  記者
1978~82
アジア新聞財団
DEPTHNEWS  東京支局長
1980~96
TVニュースキャスター
1980~現在
ジャーナリスト

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