「航空自衛隊の前幕僚長の論文は全体像把握に必要な知的努力」
『週刊ダイヤモンド』 2008年11月15日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 764
航空自衛隊幕僚長の田母神俊雄氏が、世に発表した論文を咎められて更迭され、退職した。問題とされた「日本は侵略国家であったのか」と題された論文を読んでみた。
ワープロ打ちでA4九枚の小論文は、20世紀初頭の中国や朝鮮半島と日本とのかかわりを追った内容だ。毛沢東麾下の中国共産党がコミンテルンの指導下にあったこと、国民党の蒋介石もコミンテルンに動かされていたことなど、すでに内外の多くの研究者が指摘ずみの事実を示したうえで、氏は、「コミンテルンの目的は日本軍と国民党を戦わせ、両者を疲弊させ、最終的に毛沢東共産党に中国大陸を支配させることであった」と書き、近衛文麿内閣は国民党に挑発されたとして、「我が国は蒋介石により日中戦争に引きずり込まれた被害者」などと断じた。
「朝日新聞」は11月2日の社説、「ぞっとする自衛官の暴走」で、「こんなゆがんだ考えの持ち主が、こともあろうに自衛隊組織のトップにいたとは。驚き、あきれ、そして心胆が寒くなるような事件である」と憂えた。
同社説子はまた、「一部の右派言論人らが好んで使う、実証的データの乏しい歴史解釈や身勝手な主張がこれでもかと並ぶ」と田母神論文を論難した。
この時期に、空自幕僚長が歴史をめぐって発言することの妥当性について評価が分かれるのは当然だが、氏の主張が「朝日」の言う「一部の右派言論人が好んで使う」「身勝手な主張」であるとは、思わない。前述のように、田母神論文の内容は、これまでも内外の専門家が広く指摘してきたことだ。
1920~30年代の中国研究における米国の第一人者の一人、ジョン・マクマリーのメモランダム、『平和はいかに失われたか』(北岡伸一監訳 原書房)が一例だ。同メモランダムは日米開戦時のグルー駐日大使や、戦略論の大家であるジョージ・ケナンら、米国のアジア問題専門家らに影響を及ぼし続けてきた。そのメモランダムでは20~30年代の日中関係はどのように見られていたか。
たとえば21年のワシントン会議では、太平洋地域の緊張緩和のための枠組みがつくられた。マクマリーは、「日本陸軍の現役士官達と『浪人』といわれる愛国主義の権化のようなあの無責任な連中」の存在を批判する一方で、日本政府は31年の満州事変までは、同会議の「協約文書ならびにその精神を守ることに極めて忠実であった」、「中国問題に最も深く関わっていた人々は、日本政府は申し分なく誠実に約束を守っていると考えた」ことを強調している。
マクマリーはまた、満州事変を起こした日本の路線を「不快」と断じながらも、「日本をそのような行動に駆り立てた動機をよく理解するならば、その大部分は、中国の国民党政府が仕掛けた結果であり、(満州事変は)事実上中国が『自ら求めた』災いだ」と分析しているのである。
このように、田母神氏の主張は、国際社会でも指摘されてきた内容だ。
田母神氏はなぜ、今、このような発言をしたのだろうか。必要なら国会での喚問も受けると氏は語っている。そこで十分に聞くのがよい。それもせずに、弁明を許さず、単に右派言論人の物する極論として切り捨てるとすれば、それは、一方的に日本が悪いという戦後の歴史解釈をそのまま受け入れることで、全体像の把握に必要な知的努力を否定するものだ。
田母神発言の吟味は、日本加害者論で塗り込められた村山富市、河野洋平両氏の談話を、今後も守り続けていくことの是非を論ずることと、一体でなされなければならない。
政府はしかし、今後、幹部自衛官に村山談話などの教育を徹底させていく方針だという。逆であろう。日本の間違いに留意しつつも、歴史の全体像を把握し、理解させる教育が必要なのだ。
[…] マクマリーはまた、満州事変を起こした日本の路線を「不快」と断じながらも、「日本をそのような行動に 駆り立てた動機をよく理解するならば、その大部分は、中国の国民党政府が仕掛けた結果であり、 (満州事変は)事実上中国が『自ら求めた』災いだ」と分析しているのである。 http://yoshiko-sakurai.jp/index.php/2008/11/15/%e3%80%8c%e8%88%aa%e7%a9%ba%e8%87%aa%e8%a1%9b%e9%9a%8… […]
ピンバック by 日本人は外交下手 | 2chまとめ速報-世界情勢 — 2011年02月09日 16:19