「 米国、アジア情勢を鑑みれば急務 安倍首相が明確にした改憲意欲 」
『週刊ダイヤモンド』 2016年3月12日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1124
「安倍首相は参院選で3分の2を確保すれば必ず憲法を改正する」として、岡田克也民主党代表は安倍自民党の勢力拡大阻止に向けて野党勢力の結集を進める。重要政策で一致できなくても「野合で何が悪い」と開き直り、3月2日には小沢一郎氏とも会談した。岡田氏の目指す、安倍晋三首相による憲法改正の阻止と、安全保障関連法の破棄は一体である。
他方、安倍首相は憲法改正に言及し続けている。1月4日の年頭記者会見、22日の施政方針演説、2月3、4日の衆議院予算委員会に続いて、3月2日の参議院予算委員会では民主党の大塚耕平氏の質問に、憲法改正は立党時からの自民党の党是であり、自民党総裁として先の選挙でも訴えてきたと明言した。
大塚氏が在任中の改正を望むのかと念押しすると、首相は、(1)衆参両院で3分の2以上の賛成が必要、(2)自民党だけでは不可能に近い、(3)他党の協力が必要という前提条件を述べて、自分の在任中に成し遂げたいが、前提条件がそろわなければ不可能だと答えた。改憲意欲を明確に示したわけだ。
民主党の唱える安保法制破棄および憲法改正阻止と、自民党の安保法制促進および憲法改正のどちらが日本の国益にかなうのか。国際情勢を見れば答えはおのずと明らかだ。
憲法改正を急がなければならない国際情勢の第1要因は中国の軍事的脅威の増大だが、その件は先週の当欄で指摘した。その他にもう2つ、大きな理由がある。米国の政治情勢とアジア情勢である。
米大統領選挙の流れは民主党候補がヒラリー・クリントン氏、共和党候補がドナルド・トランプ氏に固まりつつある。両氏の訴えからは、少なくともいまのところ、まともな世界戦略は見えてこない。
両氏はそろってTPPには明確に反対だ。自由主義陣営の盟主として中国やロシアに対処する枠組みを担い、そのために汗を流すという考えは見られない。このような状況で日本自身がしっかりしなければ日本を守り切れない。米国の世界に対する消極姿勢が憲法改正を急ぐべき明確な理由である。
アジア諸国に見られる重要な変化も日本に憲法改正を促す要因である。
昨年12月28日の慰安婦問題についての日韓合意で、韓国は大きく立ち位置を変えた。合意直後に北朝鮮の「水爆実験」があり、朴槿恵大統領は中国の強い反対を押し切って、直ちに米国の高高度防衛ミサイル(THAAD)の在韓米軍配備に向けた協議に入ることを決定した。対米協力強化とは対照的に、北朝鮮の核実験を阻止できず、強い制裁に踏み切らない中国に対し強い表現で批判した。
日本との歴史問題に関しては小学校の公民教科書から慰安婦や性奴隷という表現や写真を削除すると決定し、関係改善への具体的努力を示している。
中国が掌中に入れたと考えていたであろう韓国が中国離れを起こして、日米両国に再び接近し始めた。
台湾における蔡英文氏の大勝利は台湾人のアイデンティティー意識の反映であり、中国にこれ以上のみ込まれはしないという意味での「現状維持」、「事実上の独立」維持への決意である。
ベトナム、フィリピンをはじめとする東南アジア諸国も米国と初めて会談した。米国で米・ASEAN会談を開催したこと自体が南シナ海で膨張する中国への異議とみてよいだろう。
アジア諸国は中国離れという点で重大な変化をたどり始めたのである。この局面で、日本には米国とは異なる形でアジアの秩序構築を主導することが期待されている。国際法の順守と平和的手法を国際社会に打ち立てるためにも、主張を支える力が必要である。日本の発言に説得力を持たせ、日本への信頼を高め、中国に抑止力を働かせる意味で憲法改正が必要なのだ。