「 8・15文演説、反日の嘘と歪曲 」
『週刊新潮』 2019年8月29日
日本ルネッサンス 第865回
日韓関係は戦後最悪だ。有体に言って責任は文在寅大統領とその政権にある。この状況を直視して、日本政府は関係正常化の好機ともすべく、冷静で毅然とした現在の政策を堅持するのがよい。
文氏の日韓関係についての考えは、8月15日の氏の演説が雄弁に語っている。演説に込められていたのは深く頑迷な反日思想である。いまはまず、文氏の本心を正しく読み取ることが重要だ。
文氏は「光復節慶祝式」の祝辞の冒頭、南北朝鮮の協力で繁栄する「誰も揺さぶることのできない新たな国」を創ると語った。文氏の語った夢は、北朝鮮側からも侮蔑的に拒否されたように、実現性に欠けている。元駐日韓国大使館公使の洪熒(ホンヒョン)氏は「文氏は妄想家だ」と批判を浴びせた(「言論テレビ」8月16日)。
文氏は日本の敗退でもたらされた「光復」は韓国だけでなく東アジア全体にとって嬉しいことだったとして、こう説明した。
「日清戦争と日露戦争、満州事変と日中戦争、太平洋戦争まで六十余年間の長い長い戦争が終わった日であり、東アジア光復の日でした」
文氏の歴史観では、「長い長い戦争」とは、日清戦争以降、大東亜戦争で日本が敗れるまでの60年間に限られるのだ。その5年後に始まった朝鮮戦争も、韓国が望んで参戦したベトナム戦争も入っていない。
朝鮮戦争は韓国人と朝鮮人、同胞同士が血みどろになって戦った大悲劇だった。北朝鮮の共産主義勢力による侵略戦争で、未だに分断が続いている。さらにそのあとのベトナム戦争では、韓国は共産主義と戦うという大義を掲げたが、ベトナム国民に多くの被害をもたらした。そうしたことに全く触れず、日本の戦争のみを取り上げ、それが終わったから平和がもたらされたという歴史観は、偏りと反日の、為にするものだ。
日本だけに焦点を合わせる文氏の歴史観の不幸で不勉強な歪みは、朝鮮半島の歴史を振りかえることで炙り出せる。古代には漢の武帝が盛んに朝鮮半島を侵略した。隋は毎年のように兵を出した。唐は新羅を先兵として高句麗に攻め込み、滅した。新羅の次の高麗は契丹や女真に侵略され続けた。元は200回にも及ぶ侵略を繰り返し、朝鮮全土を蹂躙した。
究極の事実歪曲
確かに秀吉も文禄・慶長の役で2度にわたって攻めた。だが、その約40年後、今度は清が侵略した。明、清の時代を通して約500年間、日清戦争で日本が清を打ち破るまで、朝鮮は属国だった。
多くの戦いの舞台となった朝鮮半島はその意味では悲劇の国だ。しかし文氏は、日本以外の国々がもたらした被害には言及しない。ひたすら日本を非難する。まさに心の底からの反日演説が8月15日の演説だった。にも拘らず、日本の多くのメディアはなぜ、文演説の日本批判は抑制的だったと評価したのか、理解に苦しむものだ。
文氏は「誰も揺さぶることのできない国」作りに向けて三つの目標を掲げたが、その中に「大陸と海洋の橋梁国家」さらに「平和経済の実現」がある。
文氏の本音はここにあるのではないか。ちなみに平和経済は8月5日に文氏が打ち上げた目標である。日本政府が韓国を「ホワイト国」のリストから外したのに対し、南北朝鮮が協力して平和経済を実現すれば一気に日本に追いつける、南北は一体化に向かって突き進みたいという願望である。
しかし、1948年の建国以来、韓国の発展と繁栄は、米韓同盟と日韓協力があって初めて可能だった。
朝鮮問題専門家の西岡力氏が語る。
「韓国は海洋国家として日米との三角同盟の中で民主主義、市場経済、反共により発展してきました。大陸国家とは中国共産党、ロシアの独裁政権、北朝鮮の世襲独裁政権のことです。文氏はこの二つのブロックの間を行き来したいという。即ち、日米韓の三角同盟から抜けると宣言したわけです」
文政権誕生以来、日を追って明らかになってきたのが文氏の社会主義革命とでも呼ぶべき路線である。文政権は信頼できないとの分析は、不幸にも、いまやかなり説得力を持ち始めているが、今回の演説で文氏の本音はさらに明らかになったのではないか。日本に重大な危機が訪れたことを告げる深刻な演説だったのだ。
さらに、文演説を貫いているのが厚顔無恥というべき究極の事実歪曲である。氏は次の点を語っている。
➀どの国でも自国が優位にある部門を武器にするならば、平和な自由貿易秩序は壊れるしかない。
➁先に成長した国が後から成長する国のハシゴを外してはならない。
➂今からでも日本が対話と協力の道に出てくるのならば韓国は快く手を握る。
反文在寅デモ
日本が韓国をホワイト国から外したのは、日本が韓国に輸出してきた大量破壊兵器などに使用可能な戦略物資が大量に行方不明になっている件について、韓国側の説明がこの3年以上、ないからである。従って➀は責任転嫁である。
➁も同様だ。日本は韓国に対してハシゴを外したりしていない。反対に大事な技術を与え続けた。韓国の浦項製鉄は韓国経済を支える力となっているが、その技術は新日鉄が全面的に協力して伝授したものだ。
西岡氏によれば、庶民の食を豊かにする韓国の即席ラーメンの技術も、日本に輸出しないという条件で日本がタダで提供したという。
鉄からラーメンまで日本は技術を提供しこそすれ、ハシゴを外してはいない。
➂は、どちら様の台詞かと逆に質したくなる。2年以上「対話と協力」を拒否してきたのは、日本でなく文氏である。
文演説は反日のための虚偽と歪曲に満ちている。文氏相手では、まともな議論も日韓関係の正常な運営も難しいだろう。
戦後最悪といわれるこのような状況の下で、日韓関係も米朝関係も危機に直面し、日韓の国益が損なわれ、韓国の運命が危機に瀕している。こうした状況を生み出したのが文氏だということに、多くの韓国人が気付き始めた。気付いて行動を起こし始めた。ソウルをはじめ、地方都市でも、文氏の辞任を求めるデモが広がっている。韓国の主要メディアは報じないが、その様子はSNSで広く拡散され、多くの映像から反文在寅デモは、文氏の側に立った反日デモより数倍規模が大きいことが読みとれる。
韓国の国論は二分され、韓国人は戦っている。勢いを得ているのは反文在寅勢力の方だ。日本人は、隣国のその実態を知ったうえで、これ以上文政権に騙されないことが肝要だ。文氏の真の意図をいまこそ冷静に見てとることだ。