「 平和憲法重視の宏池会の外交方針では国際政治の大きな変化に対応できない 」
『週刊ダイヤモンド』 2018年5月12日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 Number 1230
米朝関係を背後から操るのは中国である。米中関係の中で翻弄されるのは韓国である。米中韓朝の四カ国が狙うのは日本国の財布である。他方、日本は北朝鮮の核やミサイル問題も、そして拉致問題も解決しなくてはならない。日本がどの国よりもしっかりと足場を固めるべき理由である。
国際政治の力学が大きく変化するとき、何よりも重要なのは世界全体を見渡す地政学の視点だ。150年前の明治維新でわが国は大半のアジア諸国と異なり、辛うじて列強諸国の植民地にされずに済んだ。当時の人々が、わが国に足らざるものは経済力と軍事力だと認識し、富国強兵の国家目標をよく理解し、あらゆる意味で国力強化に力を尽くしたからだ。
しかし、もうひとつ大事な要因があったことを、シンクタンク「国家基本問題研究所」副理事長の田久保忠衛氏は強調する。
「ペリーが来航した1853年にクリミア戦争が始まり、ロシアと英仏がオスマン帝国を巻き込んで世界規模の戦いを繰り返しました。8年後、米国で南北戦争が勃発、日本を窺うペリーらの脳裡には祖国の危機がよぎったはずです。明治維新の大業はこのような外圧の弱まりにも扶けられてなされたと思います」
政府と国民の意識の高まりと、外圧の弱まりの中で、150年前、日本国は辛うじて国難を切り抜けた。
現在はどうか。中国の野心的な動きに明らかなように外的脅威が弱まる気配は全く無い。国民、そして多くの政党にも、危機意識が高まっているとは思えず、これこそ最大の危機だ。外的内的要因の双方から、現在の危機はかつてのそれより尚、深刻である。
そう考えていたら宏池会が決意表明した。「宏池会が見据える未来 よりよきバランスをめざして」と題された提言を見て心底驚いた。安倍政権の下で5年間も外相を務めた岸田文雄氏が長を務めるその派閥の提言がこれなのか。岸田氏が外相として展開した日本国の外交と、宏池会が見据える未来は全く違うではないか。このギャップは何なのか。
宏池会の政策には三つの重要な柱が書かれている。(1)トップダウンからボトムアップへ、(2)対症療法から持続可能性へ、(3)自律した個人、個性、多様性を尊重する社会へ、である。
また「K-WISH」として、Kind、Warm、Inclusive、Sustainable、humaneの5つの英単語が掲げられた。日本国の総理を目指そうと言う政治家がなぜ、自分の思いを英単語の羅列で表現するのか、理解できない。
加えて、「Humaneな外交」の項には「平和憲法・日米同盟・自衛隊の3本柱で平和を創る」と明記されている。だが、平和憲法の欠陥ゆえに、日本は国際社会で苦労している。
宏池会の一員である小野寺五典防衛相は、私の尊敬する政治家の1人である。防衛相として米国のみならず各国の軍事や安全保障に関連する実態を知悉する氏にとって、日報問題に関する日本の国会論議のおかしさは、身に沁みるものがあるはずだ。それはひとえに「平和憲法」と呼ばれる現行憲法の虚構と欺瞞に満ちた立てつけゆえであろう。
また平和憲法では日本を守れず、日米同盟も維持できにくいことを、米国政府首脳、とりわけ軍事専門家との対話で誰よりもよく理解しているのが、防衛相の小野寺氏であろうに。
宏池会の3大課題の筆頭に「トップダウンからボトムアップへ」がある。安倍氏の力強い「政治主導」の逆を行こうというのであろうか。安倍政権打倒の政局に入ったのか。だとしても、宏池会の平和憲法路線ではこれからの国際社会の荒波は決して乗り越えられないだろうと思うがどうか。