「 読み取りづらい朝鮮半島情勢の行方 正恩氏は圧力で動くと忘れるべきでない 」
『週刊ダイヤモンド』 2018年4月7日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1226
金正恩朝鮮労働党委員長の電撃訪中は、拉致問題の報道にどの社よりも熱心に力を入れてきた「産経新聞」のスクープだった。
大きく動いた朝鮮半島情勢の展開は読み取りにくい面もあるが、こんな時こそ基本構造をおさえておきたい。
第一は日米が連携して維持した圧力路線が、狙いどおりの結果を生み出した点だ。各テレビ局の報道番組では、従来の日本政府主導の「圧力」路線を否定し、対話路線を取るべきだとの解説やコメントが少なからずあった。
「朝日新聞」も29日の社説で、各国は対北朝鮮制裁の足並みを乱してはならないと指摘する一方で、「日本政府の出遅れ感は否めない。圧力一辺倒に固執した結果ではあるが」と書いた。
だが、正恩氏の訪中と対話路線は日本が主張し、国際社会を動かして決定し実行した国連の制裁措置、即ち圧力路線の結果である。対話は、圧力が生み出した成果なのだ。北朝鮮の非核化と拉致問題解決まで、圧力を基盤にした現路線の堅持が重要である。
第二は北朝鮮が言う「非核化」の意味をはっきりさせることだ。中朝両国の「朝鮮半島の非核化」は、私たちが考えるそれとは根本的に異なる。
日本や米国の考える朝鮮半島の非核化は北朝鮮の核兵器、貯蔵する核物質、それらの製造施設のすべてを解体することだ。一方北朝鮮の主張は、自分たちの核は米国の核に対する自衛だというものだ。現在、韓国には米軍の核兵器は配備されていないが、米韓同盟の下、米国が北朝鮮を核攻撃する可能性もある。従って北朝鮮の核解体前に、在韓米軍基地をなくせと言う。さらに米韓同盟も解消すべきだと主張する。要は韓国からの米軍追い出しを狙っているのである。これは中国にとって願ってもないことであろう。
こちら側としては、「朝鮮半島の非核化」において、北朝鮮の核に焦点を絞ることだ。焦点を絞りきれなければ、北朝鮮に時間稼ぎをさせることになりかねない。
第三に、日本が置き去りにされ、孤立しかかっているとの見方は、日本にとって何の益もないことを認識すべきだ。拉致問題解決も北朝鮮の非核化もこちら側の一致団結が大きな力となる。とりわけ拉致問題解決には日本国民の団結が大事である。拉致問題解決に最も熱心に取り組んできたのが安倍晋三首相だ。首相は北朝鮮の核と拉致の両問題の解決を目指して、対北圧力政策をトランプ米大統領に説いてきた。
トランプ氏はその助言を大いに取り入れた。だからこそ、文在寅韓国大統領の特使がホワイトハウスを訪れ、そこで記者会見し、トランプ大統領が米朝首脳会談に応ずると発表したまさにその時間帯に、安倍首相に電話をかけて逐一報告している。
安倍首相も日本も、置き去りにされていない。わが国は有力な当事国として北朝鮮問題で重要な役割を果たし続ける立場にある。そのことを国民が確信して政府を支えることが、日本国の外交力強化の基盤であり、拉致問題解決に至る道だと自覚したい。
「産経」は「『千年の宿敵』に屈服した正恩氏」の見出しを立てて、正恩氏の中国での姿勢を報じた。中国中央テレビは中朝首脳会談で、正恩氏が熱心に習近平国家主席の発言をメモにとる姿を報じた。
正恩氏は自分が話しているときに「メモをとらない」「拍手がゆるい」「メガネを拭いていた」などの理由で部下を処刑してきた。その同じ人物が必死で習氏の言葉をメモにとったのである。中国への完全な屈服だ。正恩氏が恐れるのは現体制が崩壊させられ、自分の命が奪われることだ。そうしたことを、いざとなると実行しかねない米国の力を恐れた。米国から守ってもらうために中国の力に頼った。大事なのは正恩氏を動かすのは圧力だという事実を忘れないことである。