「 韓国大統領が指示続ける「革命的政変」 わが国の憲法改正は隣国の危機踏まえよ 」
『週刊ダイヤモンド』 2018年2月17日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1219
韓国の文在寅大統領が、「革命的政変」の指示を出し続けている。
日本では韓国系の「統一日報」が2月7日付で報じただけだが、同月5日、文大統領が政策企画委員会の丁海亀委員長に憲法改正の準備に入るよう指示した。韓国では憲法改正を大統領もしくは国会が発議できる。大統領発議の場合、国会で3分の2の賛成を得れば正式に発議され、国民投票で過半数の支持を得て成立する。
文氏は6月の地方自治体選挙に合わせて社会主義国家としての憲法を作ることを目論んでいると言われる。
文氏は大統領就任後真っ先に教科書の改訂を命じた。朴槿恵前大統領が作成させた国定教科書を全否定する決定だった。朴前大統領は、教育現場で長年使用されていた左傾化教科書を180度変えて、韓国の歴史を肯定的に評価する内容の教科書を国定教科書とした。だが、文氏は、政権の最優先政策として、その教科書をやめさせたのだ。その上で長年韓国で使われていた親北朝鮮の左翼史観に基づく教科書に戻そうとしているのである。
現在、中・高校生用歴史教科書から、「自由民主主義」の「自由」が消され、単なる「民主主義」への書きかえが行われている。なぜこのように書きかえるのか。「統一日報」論説主幹の洪熒(ホン・ヒョン)氏が解説した。
「文大統領は選挙戦で公約した北朝鮮との連邦政府を作ろうとしているのです。しかしどう考えても、いかなる自由も許さない北朝鮮の専制独裁政治体制と、韓国の自由民主主義は整合しません。だから自由という言葉を外していると考えられます」
もうひとつ気になる動きが進行中だ。少なくとも2万人、最大で6万人に上る一般市民が文政権の査察を受けている可能性がある。査察の対象となった市民は、朴前大統領の逮捕やその後の不当裁判に抗議するための太極旗デモ──参加者が韓国国旗の太極旗を掲げているためにそのように呼ばれている──にカンパをした人々だ。
各金融機関が寄付者に「あなたの金融取引情報が、令状によってソウル警察庁に提供されたことを通知します」と報告した結果、査察の事実が明らかになった。
文政権に不満を持つ太極旗グループの人々は1月16日、「公権力による民間人の寄付金不法査察及びブラックリスト対策委員会」を結成、詳しい調査を行った。その結果、5000ウォン(約500円)の少額寄付者まで査察を受けていたことが発覚した。
国家による個人への査察は大きな政治圧力になる。たとえば公務員は、朴前大統領支持のデモへの寄付行為を政権側に把握されれば、その後の人事にも影響が及ぶと恐れるだろう。あらゆる意味で威嚇効果は覿面である。
文大統領が憲法改正の準備を命じた丁氏は、韓国ではよく知られた主体思想主義者で、北朝鮮の故金日成国家主席の思想を引き継いでいる人物だ。氏は文大統領の下で、韓国における北朝鮮の工作活動を監視し、取り締まる組織、国家情報院解体の指揮を執った。
陰に陽に韓国の保守勢力を弾圧する文氏の憲法改正の思惑は実現するのか。現在、韓国では保守政党の「自由韓国党」が3分の1以上の議席を有しており、現状では文大統領の目標達成は難しい。しかし、楽観は禁物だ。
「朴前大統領を弾劾するか否かの局面で、本来、保守派であったはずの与党議員の多くが弾劾賛成に転じました。自由韓国党の分裂もあり得るでしょう。そのとき、韓国は取り返しのつかない危機に陥ります」と洪氏。
隣国の危機が日本の危機につながることは歴史上も明らかだ。中国の脅威も深刻だが、わが国はまず、朝鮮半島の危機に備えなければならない。憲法改正の議論はこのような現実の危機を踏まえて行ってほしい。