「 反対強い中での安倍首相の訪韓決意 政治家としての判断しっかり見守りたい 」
『週刊ダイヤモンド』 2018年2月3日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1217
1月24日、安倍晋三首相が2月9日に行われる平昌五輪の開会式に出席するとの考えを、開会式出席に最も強く反対していた「産経新聞」のインタビューで明らかにした。
自民党内には反対の見地から大きな波紋が広がった。この開会式には主催国の韓国でも強い反対論がある。南北朝鮮の選手による合同行進で韓国国旗の「太極旗」ではなく、「統一旗」という奇妙な旗が使用されるのが一因だ。
韓国保守論壇を主導する趙甲済氏は「自国内で国旗を降ろすのは、敵軍に降伏する時、或いは国が滅びる時だ」「文在寅政権は大韓民国を北朝鮮の政権と同じレベルに引きずり降ろすのか」と憤っている。
安倍首相はなぜ開会式に出席するのだろうか。米国政府からの働きかけがあったと、一部の関係者は語る。それが事実なら、開会式に出席するペンス米副大統領と同格の麻生太郎副総理の出番であろう。日本国総理大臣は米国副大統領より格上だ。米国はそのような非礼な依頼はしないだろう。
一方、時事通信は自民党の二階俊博幹事長や公明党の山口那津男代表らが首相の出席を求めたことが背景にあると報じた。両氏をはじめ幾人かの政府要人からその種の発言があるのは事実だ。しかし本当の答えは首相の発言の中にあるのではないか。
首相は以下の点を語っている。
・2020年に日本も五輪を開催する。日本人選手達を激励したい。
・文大統領と会談し、慰安婦問題での合意を韓国側が一方的に変えることは受け入れられないと直接伝える。
・ソウルの日本大使館前の慰安婦像撤去も当然強く主張する。
・北朝鮮への圧力を最大化していく方針はいささかも忘れてはならない。
こうした点に加えて、首相はこう語っている。
「会ってこちらの考えを明確に伝えなければ、相手も考え方を変えるということはない。電話などではなく実際に首脳会談を行い、先方に私の考え方を明確に伝えることが重要だ。なるべく早い段階で行ったほうがいいと考えてきた」
有体に言えば、文大統領が慰安婦像を撤去することも、考えを改めて慰安婦問題の合意を尊重することも、恐らくないだろう。だが、説得できるとしたら、それは日本国の最高責任者である自分自身だ。問題が困難であっても解決の方向へ持っていく責任は自分にはある。その責任に目をつぶることはしないという決意が見てとれる。
注目すべきは、「なるべく早い段階で行ったほうがいいと考えてきた」というくだりだ。米国の依頼でも政界実力者の要請でもなく、自身の判断だと言っているのだ。
首相は、開会式出席に強い反対があることも、そうした気持ちになることも十分に理解できるとして、「何をすべきかを熟慮して判断し、実行するのは政権を担う者の責任です」とも語っている。
首相訪韓には前向きの要素もある。文大統領に日韓関係についての日本の危機感を伝え、北朝鮮問題での日米韓の結束の重要性を説くことも当然すべきだ。北朝鮮有事の際に、拉致被害者救出のために自衛隊の行動などに関して、韓国が協力してくれるよう説得する機会でもある。
朝鮮半島をめぐる力学の中で、ペンス副大統領と共に安倍首相が訪れることで、日米関係の緊密さを、中国などの関係諸国に顕示できる。その政治的意味は軽くはないはずだ。
今回の件は首相のロシア外交を連想させる。見通しが甘いなどといわれながらも貫き通している。首相はその言葉のように、「熟慮して判断」したのだ。自民党内はおろか、世論の強い反対もある訪韓は、政治家としての判断だ。しっかりと見守っていきたい。