「 テロ等準備罪の成立へ強硬に反対した民進党こそが政局に動き良識を捨てた 」
『週刊ダイヤモンド』 2017年6月24日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1187
この原稿を執筆中の6月15日未明、国会ではまだ、与野党が「テロ等準備罪」を巡って攻防を続けている。14日夜、参議院では自民党議員らが本会議場に入ろうとするのを、福島みずほ氏ら野党議員が廊下に立ち塞がる形で妨げようとしていた。複数の民進党議員らが、テレビカメラを意識してか、強硬な反対の意思を厳しい表情に表していた。
民進党の未来を担うこれら若手政治家の、テロ等準備罪に反対して仁王立ちになっている姿を見るのは本当に残念だ。本欄でも取り上げたことがあるが、11年前、民主党(現民進党)は、現在の法案の素となった「共謀罪」に次に示すような厳しい注文をつけた。
(1)対象となる犯罪を政府案の619から306に絞りこむこと、(2)取り締まる対象を単なる「団体」から「組織的犯罪集団」に改めること、(3)犯罪実行のための「予備行為」を処罰の要件とすること、の3点である。
私は当時、右の民主党修正案を評価し、自民党に丸ごと受け入れるよう求めた。今日15日に成立する「テロ等準備罪」は民主党修正案をほぼそのまま受け入れている。にもかかわらず、彼らはいまも、戦前の治安維持法を引き合いに出し、「普通の人々が監視され、次々と引っ張られた。同じ事を繰り返してはならない」などと極論で世論を煽る。或いは与党の手法が強引だと論難する。
私たちはここで、約2年前の「平和安全法制」を巡る議論を思い返すべきだ。民主党ら野党は国会の外に飛び出し、デモ隊と一緒に「戦争法案だ」「人殺しの法案だ」と叫んだ。
法案は成立して法となった。いま、北朝鮮有事が起きたと仮定すれば、自衛隊は同法に基づいて横田めぐみさんら拉致されている人々の救出に向かう。だが、断言してもよい。実際には自衛隊は何もできないだろう。
なぜか。まず、自衛隊が救出に向かうには、当該国政府の同意が必要という条件がつけられている。北朝鮮は何十年も拉致被害者を拘束してきたにもかかわらず、拉致被害者はもういない、或いは死亡してしまったと主張している。自衛隊が拉致被害者救出のために北朝鮮に入ることを彼らが了承することなどあり得ないだろう。従ってこの条件は決して満たされず、自衛隊は動けない。
条件の第2点は、「当該国」つまり北朝鮮の治安が維持されていて自衛隊が戦闘に巻き込まれないことが保証されなければならないという点だ。
自衛隊出動の可能性があるのは北朝鮮の現体制が大きく揺らぐときだ。韓国軍、或いは米軍も中国軍もすでに展開中かもしれず、戦争状態だろう。だからこそ、日本人救出には自衛隊が行かなければならない。にもかかわらず、北朝鮮の治安が維持されていない限り、自衛隊の展開は許されないというのであれば、自衛隊は動けない。
第3の条件はもっと噴飯ものだ。自衛隊の展開には当該国(北朝鮮)の国軍や警察との連携が必要だというのだ。
参議院議員の青山繁晴氏が語った。
「自衛隊の出動は韓米軍が北朝鮮と戦争状態になっているなど、尋常ではない状況下ですよ。米軍と戦っている北朝鮮の軍や警察と、日本の自衛隊がどうやって連携できるのか。こんな非現実な酷い条件がつけられているのが安保法制です」
ここまで自衛隊を縛る条件付きでも民進党は「人殺し法案」だと反対した。拉致被害者とその家族に思いを致さないのか。
午前六時、まもなくテロ等準備罪の成立だと、テレビのニュースが伝えている。「参議院は良識の府としての良識を捨てた」と蓮舫氏が批判していた。加計学園問題を材料に、それとは本質的に無関係の重要法案阻止で政局に動いた民進党こそ、良識を捨てたのではないのか。