「 脳梗塞から復活した平沼氏が一貫して訴え続けた自主憲法制定 」
『週刊ダイヤモンド』 2016年2月13日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1120
昨年9月初旬、脳梗塞で倒れ療養中だった平沼赳夫氏が、自身のホームページに復帰の動画を発表した。
痩せたが、しっかりした口調で経緯を語っている。倒れて以降のリハビリ、昨年秋の自民党最高指導者(安倍晋三総裁)との面談、自民党党規委員会での満場一致の復党の受け入れ、長年の主張である自主憲法制定を目指し、「大和の国、平和な国」としての日本の復活にこれからの政治活動を集中させることなどを語っている。
氏は衆議院議員選挙への初立候補のときから自主憲法制定を訴えてきた。日本の在り方について、これまで度々氏とは意見交換をしてきたが、氏がよく語る往時のエピソードはやはり憲法にまつわるものだ。
「憲法は票にはならないのですよ。ですから、若い政治家として憲法の話ばかりすると、亀井(静香)さんに、もっと目の前の選挙区の利益につながる話をしろと、よく怒られました。それでも私はずっと、自主憲法制定を訴えてきました」
正直で真っすぐ路線の平沼氏が、真に政治家に向いているかどうか、私には分からない。しかし、氏の自民党復党は当然で、そもそも、氏を党から追い出した小泉純一郎氏の手法が理不尽だった。
平沼氏の自主憲法制定に異論を唱えるのは難しい。読めば読むほど、現行憲法がどれほど日本人に向いていないかはすぐ分かる。その居心地の悪さは逐条的にどこかを変えれば済むというものではなく、全体を入れ替えるのが一番だと、私も思う。
私たちの眼前にはすでに幾つか新しい憲法試案が示されている。例えば「読売新聞」「産経新聞」、そして自民党がおのおの発表済みだ。私は「産経」の労作である「国民の憲法」が最も優れていると考えるし、それを現行憲法に置き換えられるのであれば、それが1番だと思う。つまり、「自主憲法」の制定である。
しかし、それは手続き的にも現実的にも難しい。どれほど変な内容でも現行憲法は一応明治憲法の改正規定に従って変えられ、昭和天皇も御名御璽を押された。であれば、現行憲法の破棄ははばかられるのであり、改正するにしても、現行憲法に定められた手続きに従うのがよいのではないか。
現行憲法の改正手続きは、1度に変える条文の数を制限しているわけではない。理論的には全面入れ替えも可能だ。しかし、それで国民は納得するだろうか。わが国は中国ともロシアとも異なり、国民の総意を大事にする民主主義の国である。そう考えれば、国民の納得を得るには改正の大きな争点は、やはり1つか2つであろう。
2月3日、全閣僚が出席する衆院予算委員会において、安倍首相は憲法9条2項に関して、「7割の憲法学者が自衛隊について憲法違反の疑いを持っている状況をなくすべきではないかという考えもある」と述べた。
今更だが9条2項は「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」との規定だ。
この9条2項故に、自衛隊は違憲だと、日本の憲法学者の7割が考えている。今や国民の92%という圧倒的多数が自衛隊を支持しているのに、圧倒的多数の憲法学者らが違憲だと主張するのは正常ではない。解決方法は2つ、(1)憲法優先で自衛隊をなくす、(2)憲法自体を改正する、である。
中国の脅威が眼前に迫るいま、自衛隊の強化こそ必要で、(1)はあり得ない。正しい解は、(2)である。
安倍首相の憲法改正に懸ける思いを正確に読み取りたい。平沼氏は発作後全く動かなかった左足も回復した。憲法改正への意欲を明らかにした安倍首相と共に平沼氏には着実な歩みと、さらなる活躍を祈りたい。