「 攻める中国、受け身の米国 世界の力関係転換の瀬戸際 」
『週刊ダイヤモンド』 2015年7月4日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1090
6月23、24日の両日、これからの世界のパワーバランスを予測するのに最も重要な対話がワシントンで行われた。米中戦略・経済対話である。
これはブッシュ政権が米中の経済問題を主題として話し合うために始め、オバマ政権が経済にとどまらず、戦略を話し合う場に昇格させた。世界の在り方を米中二大国で決めようという、私たちから見れば不遜な対話でもある。副大統領、副首相らを筆頭に双方から多くの閣僚が出席し、まさに米中が国を挙げて臨んだ。
詳細な情報はまだ入手していないが、初日の主要演説を読めば大きな流れは見て取れる。オバマ政権は卑屈なほど中国に気兼ねし、中国は極めてビジネスライクに対処した。完全に米国側の「負け」である。とりわけジョー・バイデン副大統領の冒頭演説は冗長で自負も気概も欠いていた。
「率直に言って、貴国はわれわれを覚醒させました。われわれは少し鈍化していた。われわれは少し──私の同僚たちが私がこのように語るのを好まないのは承知しているが──しかし、われわれは少し、なんといえばよいのか、20世紀の終わりの時期、快適であり過ぎた」
バイデン氏の発言をそのまま日本語にしたのだが、このくだりは、心ある米国人にとって苦々しいのではないか。正直といえば正直な感想なのだろうが、その後、副大統領は台頭する中国を延々と褒めたたえ、米国はその中国の台頭を歓迎すると繰り返した。また超大国の威厳を全く感じさせない演説の最後で、氏はこう語った。
「全ての政治、特に国際政治は個人的なものです(All politics is personal.)。個人的関係によってのみ、それが唯一、信頼を築く手段です」
文脈が不確かな語り口調で氏は習近平氏についても絶賛した。
「彼は主席になったとき5時間も私に会ってくれるほど、よくしてくれた。私は彼をよく知っていると思う。われわれは彼のことを知っている」
この種の「個人的関係」の上に、外交が成り立っているという氏の主張は国際政治の常識には当てはまらない。外交を決定付けるのは国益である。
バイデン演説を受けた中国の副首相、劉延東氏の演説はバイデン演説の約5分の1の短さで、情緒たっぷりの前者の演説に比べてあっさりした内容だった。後はただ肝心なこと、習近平国家主席が新型大国関係の堅固な樹立を願っていることだけを2度、強調した。その後、ジョン・ケリー国務長官がこれまた情緒的な演説をし、それを受けて汪洋副首相が、ケリー演説の半分にも満たない短い演説で、またもや新型大国関係樹立の重要性を強調した。
ジェイコブ・ルー財務長官は「政府支援のサイバー攻撃による知的財産の盗み取りに深い懸念を抱いている」と中国側に警告を発したが、その後に演説した楊潔篪(よう・けつち)国務委員は「中国は近隣諸国に対して誠実さ、親和性、真の利益と抱擁性を実践してきた」とうそぶいた。米国の抗議など一向に気にしないといった風情で「高所に立って遠い未来を見据え、新型大国関係を構築しよう」と呼び掛けた。
新型大国関係の柱は核心的利益の相互尊重である。チベット、ウイグル、台湾、南シナ海、尖閣諸島は中国の核心的利益であり、米国はそれを受け入れよと、中国側要人全員が口をそろえて要求し続けた。彼らの狙いは米国に中国流の国際社会の支配を受け入れさせることである。その基軸が新型大国関係なのである。
世界の力関係が大きく転換する瀬戸際で、中国が冷徹に攻め、米国が情緒的受け身に回った。今後いよいよ、米国に頼っていては大変なことになると予感させる展開だった。日本の国益を守るのは日本でしかあり得ないと心を引き締めたい。