「 沖縄の集団自決をめぐる教科書検定に異議を唱えたNHKの偏向報道 」
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 686
高校の歴史教科書における沖縄戦についての記述に、文部科学省から検定意見が付いたとして、3月30日のNHKはこれを大きく報じた。検定で問題とされたのは、第二次世界大戦末期の沖縄戦において、旧日本軍が住民に集団自決を命じたというくだりである。NHKはまず、集団自決を命じたとされてきた梅澤裕・元沖縄慶良間(けらま)列島座間味(ざまみ)島守備隊長の感想を報じた。
現在90歳の梅澤氏は、旧軍人と旧陸軍に着せられた濡れ衣が教科書検定を通して晴らされたことについて、「うれしい気持ちだ」と語った。だが、NHKは氏のコメントを冒頭で短く伝えたあと、氏のコメントに費やした時間に比較して不当に長い時間を費やし、旧軍が集団自決を命じたと断ずる実態は存在していたとの主張を、研究者、住民の発言を中心に展開した。NHKの報道は明らかに、梅澤氏ら旧軍関係者の主張を否定し、検定意見に異議を唱えることを主眼としたものだった。
沖縄戦で非常に多くの住民が痛ましい犠牲を強いられたのは、歴史上の事実である。誰もそのことを否定しはしない。かといって、いわれなき罪を旧軍人や旧軍にかぶせてよいわけではない。NHKは報道の最低限のルールとして、戦後長きにわたり大江健三郎氏らによって、事実無根の集団自決命令を下した軍人として貶(おとし)められてきた側の声をもっと報ずるべきだった。一方の意見のみを軸としたNHKの報道は、偏向報道以外の何物でもない。
ノーベル賞作家として“名声”を確立させた大江氏は、著書『沖縄ノート』で、梅澤隊長らが「住民は、部隊の行動を妨げないために、また食糧を部隊に提供するため、いさぎよく自決せよ」と命じたと断じ、にもかかわらず、命じた本人らは戦後も生き延び、沖縄への謝罪もないままに、一般住民に埋没して生活していると糾弾する。“集団自決命令”の当事者らを、「あまりに巨きい罪の巨塊」「屠殺者」などの表現で痛罵してきたのが大江氏だ。
だが、事実は大江氏の著述とは正反対だったことは、すでに報じられてきた。梅澤隊長の命令によって集団自決を迫られたと主張してきた座間味島住民のなかからも、「命令があったというのは嘘だった」との証言が出てきたのだ。
1945(昭和20)年3月25日夜、住民代表5人が梅澤隊長を訪れ、「足手まといにならないために、年寄り、女子ども、赤ん坊まで全員死ぬと決めています」と語り、ついては玉砕用の弾薬が欲しいと請うたそうだ。梅澤隊長は驚き、「自決など考えてはならない、軍は住民を守るために戦っている、後方に退いて避難せよ」と諭した。しかし、代表の一人だった助役の宮里盛秀氏が住民たちに集合を命じ、集団自決を決行。それが真実だというのだ。
上の証言は、3月25日夜、梅澤隊長を訪れた住民代表5人のうちの1人である宮城初枝氏が書き残したものだ。彼女は、集団自決が梅澤隊長の命令だということにしたのは、軍命によって自決したのであれば、一般住民も国の補償金を受けられるという事情があったと説明、梅澤氏らに謝罪している。
“集団自決”のもう一つの村、渡嘉敷村の碑文にはこうも書かれている。
「豪雨の中を米軍の攻撃に追いつめられた島の住民たちは、(中略)敵の手に掛かるよりは自らの手で自決する道を選んだ。一家或いは、車座になって手榴弾を抜き或いは力ある父や兄が弱い母や妹の生命を断った。そこにあるのは愛であった」
涙なしには読めない。事実の歪曲は、悲しみを癒やすことも関係者を救うこともない。重要なのは事実と向き合うことなのだ。沖縄にも、風説をもって旧軍人を非難し続けるマスコミに対し、「真実に謙虚に向き合うおとなになれ」と「沖縄ショーダウン」(「琉球新報」連載)に書いた上原正稔氏らがいることが、せめてもの救いである。
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