「 中国がバチカンを巻き込んで謀略 日本は果敢に反論し広報すべき 」
『週刊ダイヤモンド』 2016年2月20日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1121
2月20日に書店に並ぶ高橋史朗氏の近著『「日本を解体する」戦争プロパガンダの現在』(宝島社)に非常に恐ろしいことが書かれている。中国が日本に歴史戦争を仕掛けているのは周知だが、その戦場がバチカンを巻き込んで広がりつつあるというのだ。
話は1937年1月9日にさかのぼる。中国河北省の正定にカトリックのミッションの支部があった。37年といえば12月に日本軍が南京に入城、「南京大虐殺」を起こしたと中国が主張し、研究者から見れば根拠を欠く不条理な非難を日本は浴びてきた。
その同じ年に日本軍が「正定事件」を起こしたと、中国とオランダが共同でローマカトリックの総本山、バチカンに次のように訴えた。
カトリックミッションに日本軍が乱入、女性200人を要求し、宣教師たちが断ると、9人の宣教師を誘拐し殺害した、と。
中国とオランダは、女性たちを守ろうとした尊い行為を顕彰し、犠牲となった九人を悼み、彼らの「列福」をバチカンに申請したというのだ。「列福」とは「徳と聖性が認められて聖人に次ぐ福者に昇格させること」だそうだ。実現すればカトリックの世界で9人の宣教師は大層尊い存在となる。ローマ法王は、列福された人々を高い徳を備えた聖なる人物として全世界のカトリック教徒に宣告する。
「そうなれば、福者の栄光と、日本軍の悪辣な行為が対比され、日本国を悪者として際立たせる効果が生まれます。空恐ろしい企みを中国は着々と実行しているのです」と、高橋氏は警告する。
実は、右の情報を最初に日本にもたらしたのはスイス・ジュネーブの国際機関で働く白石千尋氏である。彼女は中国の動きに危機感を覚え、当時、正定のカトリックミッションを庇護しており、事件の調査、および事後処理を担当したフランスの資料を調べた。
白石氏は6人の情報源の証言で報告書が作成されたことを突き止めた。6人のうち2人がオランダ人の神父、2人が中国人だ。しかし4人は女性の要求については一切触れていない。
他方、ヴィエンヌという司祭は「強盗は8人で中国人女子修道院に侵入したが、一切暴行は加えず修道院を出て、難民らから強奪した」と証言している。
犯人らは必ずしも日本人ではなく、金目当てで貧しい中国人修道女には興味を示さなかったと解釈されている。
女性の要求について証言したのはスウェーデン人のヒルという神父だ。彼はミッションの管理人リー・チャイという神父から聞いた話として、「日本兵がやってきて女性を要求」「外国人宣教師の1人が断固拒否」すると、「一旦去って、夜になって戻ってきて宣教師たちを誘拐し、後に殺害した」と語っている。
明らかなのはヒル証言が伝聞であること、加えて「200人」という数字は一切出てこないことだ。
フランス当局は3カ月後「これが可能な限り集めた情報の全てである。これ以上真相について語ることは恐らく不可能」と報告した。高橋氏が語る。
「つまり、女性200人を要求したというのは完全な捏造とみてよいと思います。日本としてはフランス政府の資料を精査して、バチカンに詳しく報告すべきです。資料の中には『現場にはダムダム弾10発と中国刀1振りが残されていた』との証言もあります。ダムダム弾は日本軍は使っていません。またチャイ神父は『強盗の中に流暢な中国語を話す男がいた』とも証言しています。別のフランス人も、数人が『正しい中国語を喋っていた』と証言しています」
日本政府は情報の収集、分析、対策を急ぎ強化すべきだ。中国の底知れぬ謀略との戦いは、武器なき戦いである。果敢に反論し、こちら側の事実を広報しなければ、日本は敗北する。