「 沖縄前知事らが現知事の主張を批判 辺野古は「反対のための反対運動」 」
『週刊ダイヤモンド』 2015年12月12日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1112
インターネット配信の「言論テレビ」の番組で、前沖縄県知事の仲井眞弘多(なかいま・ひろかず)氏と石垣市長の中山義隆氏の話を聞いた。「知事退任から1年、体調はかつてなく快調。理由は(偏向報道で知られる)沖縄の新聞を読まないから」と破顔一笑した仲井眞氏は、翁長雄志(おなが・たけし)現知事の辺野古闘争に極めて批判的だ。
翁長氏は12月2日、福岡高等裁判所那覇支部で行われた第1回口頭弁論で、「裁判で問われているのは承認取り消しの是非だけではない」「沖縄県にのみ負担を強いる日米安全保障体制は正常か国民に問いたい」と主張した。
そもそも氏は、米軍普天間飛行場の辺野古移転に必要な海の埋め立てを承認した前知事の手続きに瑕疵があるとして訴えた。だがいま、訴えの前提を拡大し、沖縄の重い基地負担について、疑問を突き付けている。
前知事と現市長はどう考えるか。まず、仲井眞氏が断言した。
「手続きに瑕疵があるとはとんでもない話です。その主張は彼(翁長氏)の友達グループでつくった諮問委員会の結論をそのまま受け入れたものです。私は県庁の担当部署を総動員して約10カ月、あらゆるチェックをしました。政府・防衛局には数100件に上る検討事項を投げて、1つ1つにきちんとした答えを得て初めて埋め立てを承認した。瑕疵などあるはずがありません」
中山氏も語った。
「本当に瑕疵があれば、翁長氏の主張は本来もっと具体的であり得るはずです。しかし、訴状を読むと『辺野古埋め立ての必要性に合理性がない』とか『国土利用上の合理性も(普天間の)行き先が辺野古でなければいけないという理由が説明されていない』とか、抽象的です。いくら探しても瑕疵がなかったので、作文したのではないかという感じを受けますね」
沖縄だけになぜ重い基地負担を押し付けるのかという翁長氏の問いについても、仲井眞氏は批判した。
「だからこそ、私も知事として長年基地負担の軽減を政府に働き掛けました。政府は米国と交渉して、米軍再編と大幅な基地負担軽減策を打ち出しました。まず、住宅密集地にある普天間飛行場を辺野古に移す。これで航空機の離発着は全て海上ルート経由となり騒音問題が解決されます。辺野古にすでに存在するキャンプ・シュワブの一角に新滑走路を造るのに必要な面積は、普天間飛行場の3分の1です。これに伴って海兵隊1万人もグアム島に移り、嘉手納飛行場以南の全米軍基地が沖縄県に返還されます」
元米国沖縄総領事のケビン・メア氏は、一連の措置で沖縄の総面積に占める米軍基地の面積は19%から12%へと3分の1以上も減ると説明する。
だが、翁長氏はこうした日米両政府の計画を評価しない。むしろ基地縮小計画の頓挫を望んでいるのかと思わせる主張さえ展開する。例えば「(普天間移設)工事をぜひとも続行しなければならない緊急性は存在しない」(代執行訴訟に対する翁長氏の答弁書)などと言う。
普天間飛行場を放置するつもりなのか。氏の主張を精査してみたが、氏は普天間の現状をどう改善するのか、全く語っていない。普天間は反政府闘争の材料以上でも以下でもないのかとさえ思わせる。普天間を擁する宜野湾市の住民が普天間の危険性除去を急げとして翁長氏を訴えたのも、そうした思いからであろう。仲井眞氏が語った。
「私は3回、知事選を戦いました。翁長さんは1回目と2回目、私の選挙対策本部長でした。なのにいつから考えが変わったのか、よく分かりません」
かつての自民党県連幹事長が共産党や社民党と共闘する姿に、翁長氏の闘争は沖縄県民の基地縮小の願いの実現というより、反対のための反対運動だという声が地元沖縄で強いのも自然なことであろう。