「 優位な対潜能力に自信を持ち尖閣諸島の実効支配を高めよ 」
『週刊ダイヤモンド』 2010年12月25日・2011年1月1日合併号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 868
12月11日未明に沖縄県石垣市の市議会議員2人が尖閣諸島の南小島に上陸した。石垣市は尖閣諸島を直接、所管する立場にあり、かねて固定資産税などの評価のために上陸して調査したいと、国に申し入れていた。
それはもっともな理由だが、真の理由は日本の領土領海を侵す中国の主権侵害に対する政府の対応の手ぬるさに危機感を抱いたからであろう。
東南アジア諸国やインドとの領土領海争いで中国がどのように他国の土地、島、海を奪ってきたかを見れば、彼らが必ず尖閣諸島にも手を延ばしてくることは十分、予測出来る。中国側が上陸してしまえば、奪還は厳しくなる。中国が動く前に、日本がさまざまなかたちで尖閣諸島の実効支配を確立することが大事なのだ。その点で石垣市議らの行動は、地元ゆえの切迫感に駆られたものであり、政府は仮初にも彼らを非難してはならない。むしろ、日本側の実効支配を正当なかたちで実現することに力を注がなければならない。
現在も続く異常な規模の軍拡で中国は他国に心理的圧迫を加えるに十分な軍事力を構築した。怯えさせることが彼らの目的であれば、怯えずに冷静に分析することが重要だ。実際、急速につくり上げた軍事力にはどこかに大きな欠点がある。彼らの最大の弱点は対潜能力がはなはだしく劣っていることだと、元海上自衛隊護衛艦隊司令官の金田秀昭氏は語る。
優れた潜水艦能力を有していれば、動く要塞、最新鋭の空母でさえも攻撃できる。米国をはじめ諸国が中国の軍事力に注目するのは、この13年間に急速に増えた新型の艦艇、新型の航空機、新型の潜水艦ゆえだ。これらを統合運用して初めて、相手国の潜水艦を牽制出来る。その対潜能力が中国の場合、「はなはだしく劣る」というのだ。
「彼らは新型の装備を驚嘆する速度とボリュームで整えていますので、確かに個々の艦、たとえば巡洋艦や駆逐艦などの能力は高いのです。しかし、そんなものは能力の高い潜水艦にとってたいした問題ではありません。それより大事な戦略対潜能力と戦域対潜能力が中国には欠けています」
戦略対潜能力とは、南シナ海や東シナ海、西太平洋などの大きな海域全体で、相手国の潜水艦の行動をとらえその攻撃から味方の艦船を守る能力だ。
この点について、日本には日米共同体制の下で、宇宙からの監視、海上自衛隊のP3C哨戒機をはじめとする空からの情報収集に加えて、金田氏が「圧倒的だった」という旧ソ連潜水艦封じ込めの経験に裏打ちされた対潜水艦戦の技術がある。対照的に中国にはこの能力がないのである。
中国はまた、より狭い海域を守る戦域対潜能力も欠いているという。
「中国は潜水艦の行動性と静粛性を向上させてきましたが、どんな潜水艦でも静粛性にはどこか弱さがあります。それをどう感知するかが鍵なのです」
海中深く潜って行動する潜水艦の居場所を突き止めるには、空と海の統合作戦が必要だと、金田氏は指摘する。
「潜水艦の捜索で、東から捜索しても南から捜索しても探知できない、けれど北から捜索したらかすかな反響音をとらえることが出来たなどという事例は珍しくありません。そのような弱点が必ず、どこかにある。それを周辺海域とその上空にちりばめた兵力を統合運用することでキャッチし、追跡して追い詰めていくのです。そうすれば、中国が誇示する大海軍も容易には動けません。そのような能力を日本は持っています。ただし米軍との協力で初めてそれは可能になります」
日本は自信を持ってよいのだ。そのうえで今すべきことは、第一に日本の得意とする対潜能力を高め、米国との統合運用を進めることだ。第二に、石垣市議の動きを無にせず、尖閣諸島の実効支配体制を冷静に、素早くつくり上げることだ。